県境を越えしばらく走ったところで。ログハウス造りのステーキハウスで早めのランチを取った。
 あたしはハンバーグランチでも良かったけど、洋秋が「しっかり食っとけ」って。

「瑠衣はもう少し肉付けろ。これから週一で俺が肉を食わせるか」

「やだ。あたしアスリートじゃないし」

「子育てはトライアスロンみたいなもんだろう」

「・・・上手いコト言うねぇ、洋秋」

 クスクス笑えば、そうか?って不敵そうな笑みで返る。 


 そう言えば。洋秋と2人だけで食べるのって初めてな気がした。いっつも由弦と3人か、ヤマトを足して4人。
 由弦は必ずあたしの隣りに座ってさ。お節介焼いてきちゃあ、あたしに『うっとうしいっ』ってイヤがられて。なんだかんだって結局、由弦に面倒見てもらってたんだけどね。

『ほら瑠衣。テメーは飲み過ぎるな』
『・・・バカ、そっちナマ焼けだぞ。こっち食えよ瑠衣』
『だから瑠衣のはまだ冷めてねーって言ったろうが。ドアホ』

 クールぶった顔で言いながら、どっか嬉しそうに『瑠衣、瑠衣』って。
口は悪いのに眼は優しいし、コイツどんだけあたしが好きなんだって。
 
  
「・・・瑠衣?」

 急に押し黙ったあたしを向かいから洋秋が真顔で見つめてた。

「・・・・・・ちょっとね。思い出してた」

 淡く笑んで。

「あたしは意地でもスキって言ってあげなかったのに。由弦は全くめげてなかったなぁって」

 すると洋秋が儚そうな笑みを零して言う。

「言わなかっただけで、お前たちは惚れ合ってたようなもんだったろ」

「・・・洋秋にもそう見えてた?」

 思わず目を丸く。

「瑠衣が遠慮なく甘えてたのは由弦だけだったろうが。嬉しくない男なんざいない」

「・・・・・・・・・そっか」

「ああ」

 あたしは食後に運ばれてきた珈琲に目を落とし、ぽつりと呟く。

「・・・・・・由弦は、あたしを待ってんの嫌になんなかったのかな・・・?」

「そう見えたことは俺は一度も無かったが」

「・・・・・・・・・・・・そっか・・・」

 俯いて涙を堪えてるあたしにハンカチが差し出され、受け取ってそっと目頭を拭うと、洋秋の穏やかな声が低く聴こえてきた。
 
「由弦にとっちゃ瑠衣と過ごした時間は全部が宝のはずだ。・・・たったの三ヶ月と言わずにな」