珈琲は微糖のブラックが最近のあたしの好み。ドリップ式のを淹れてくれたヤマトがマグカップを2つリビングテーブルに置き、隣りに座る。

「・・・あ、そうだ。今度の日曜なんだけどさ」

 カップに手を伸ばしながら、あたしはさり気なく言った。

「ちょっと朝から洋秋と出かけるから、ちはるは鈴奈さんに見てもらうんだ。もしヒマだったら鈴奈さんトコで子守りの手伝いしてあげてよ」
 
「組長と出かけンの?」

 珈琲に口を付けるヤマトと目が合って。用意してた答えをそれもさり気なく。

「征一郎さんが、久しぶりに3人でゴハンでもって誘ってくれたのよ。ドライブがてら、美味しいお肉食べさせてくれるらしいから」

 あたしは待ち遠しそうに笑ってみせる。

「・・・へぇ。じゃあテキトーに姐さん家に行く」

「ありがと。・・・ほんといつも助かってるよ、ヤマトのおかげで」

「オレが好きでやってんだし、ベツにもっと頼ってくれていーのに」

「遊び盛りの24歳男子に、いつまでも主夫させるワケにもいかないでしょ。ちはるも、もーちょっとしたらオンブ出来るようになるし。そしたらヤマトを解放してあげられるからね」

「・・・オレはいいよ、そんなの。ずっと姉さんを助けるって決めてるし」 
 
「言ってくれる気持ちはすっごく嬉しい。でもあたしは大丈夫。ヤマトの時間は、ヤマトの為に使いなさい。由弦だってきっとそう言うから」
 
 言い聞かせるように。
 どっちかって言えば、カワイイ系で甘い顔立ちのヤマトを見上げると。
 あたしを見返してる眼差しがどことなくきつさを増した。気がした。

「オレは無理してもないし、来たくて来てる。それとも迷惑?」
 
「迷惑なんて思ったコトもないよ!」

「なら。もうこの話はナシで、オレのしたいようにさせてよ姉さん」 
 
 通したい意地がある時の男の眼をあたしはよく知ってる。
 きっぱり言い切ったその顔は、弟扱いできないくらい男らしく見えた。

「・・・・・・一回決めたら曲げないトコとかほんと誰に似たんだか」

 わざと溜め息雑じりに。ちょっと呆れ顔で。

 複雑な気持ちがしてた、ほんとは。そうまで言ってくれたのが嬉しかった反面、これ以上あたしの人生の道連れにしたくないって。
 どこかで切り離さないと。
 胸の中で思いを引き締める。

 ヤマトは視線を傾げ、すかさずこっちに得意げな笑みを返した。

「兄貴より手強い自信あるから。オレ」