廉はしっかり首も座って、手でモノを掴もうとしたりするようになった。
 夜もミルクに起きる回数が減って、鈴奈さんはだいぶラクになってきたらしい。

『ちーちゃんも、あと少しよー?』

 笑顔で言われるけど、ウチの娘はまだ3時間置きくらいにミルクを欲しがるし、育児はすごい体力勝負だよ由弦。
 





「・・・姉さん、ただいま。こんなトコで寝ちゃ風邪引くって」

 肩をやんわり揺さぶられて、ふと覚醒する。
 ぼんやり目を開ければ、目の前にスーツ着たヤマトが立ってた。
 どうやら夕飯の後、テレビを観ながらひじ掛けを枕にソファで転寝しちゃったらしい。
 ちょっと気怠い躰を起こして、あくびを噛み殺す。壁掛け時計に目をやれば10時すぎ。
 アレちはるは?! ハッとして立ち上がりかけたら、ヤマトが「大丈夫」って笑った。

「ちーなら寝てる」
 
 安堵の溜息を吐くあたしに、「コーヒーでも飲む?」
 さっさとキッチンに立つ後ろ姿は、誰の家だか分かんないぐらいここに馴染んでる。

「ヤマト。あんただって自分のコトがあるんだから、毎日来なくたっていーんだからね?」

「自分のコトも姉さんのコトもちゃんと考えてる。心配ないって」

 背中に言ったら涼しい声が返った。
 ちょっと前までは。洋秋が長男、由弦が次男、ヤマトは甘えん坊の末っ子だったのに。次男を継いでしっかり者になった。

 
 あたしはどうかな。
 進んでるのかな。

 
 立ち止まったまま、流されてるのかな。