由弦はあの夜。
 召ばれたお酒の席から次の店に移るため、近くのコインパーキングに駐車した洋秋のエスティマを取りに一人で向かった。
 ・・・洋秋から聴いた話だ。
 なかなか戻らないのを不審に思った洋秋がスマホを鳴らしても、由弦は出ない。何かあったと直感した洋秋がコインパーキングに駆けつけた時。由弦は車の傍で仰向けに斃(たお)れてた。
 正面から一突き。・・・失血死だった。
 抵抗の跡もなく、顔見知りの怨恨だと警察は断定した。洋秋も征一郎さんも見解は同じだった。
 由弦もそれなりに腕は立つ。黙って殺される訳がないと。
 
 設置された防犯カメラに映りこんだ帽子を被った男の素性を、警察は割り出せてない。
 やくざの揉め事を本気で捜査する気もないだろう。だからあたしは征一郎さんの力を貸してくれるよう頼んだ。
 広域指定暴力団、櫻秀会の“裏幹部”って呼ばれる程の彼なら。出来ないハズがないのを知ってるから。


『・・・・・・征一郎さん。由弦を殺した男を生きたまま、あたしの前に連れてきてください』
 
 あたしが言った時、征一郎さんは。一瞬目を見張り『どうするつもりだ』と眼の奥から鋭い気配を放った。

『・・・あたしが殺します』

 言い切ったのを驚く様子は見せなかった。沈黙したのは束の間で、ややあっておもむろに。

『瑠衣子がどうしてもそうしたいなら、叶えてやろう。・・・だが俺にも条件がある』

 あたしは視線を投げ返した。代償なら払う。覚悟は決めてた。

『何があっても腹の子を無事に生め。・・・それまでに必ず見つけ出しておく。警察にも渡さん。お前が俺との約束を守れたら引き換えだ』
 


 
 それまでは、死ねなくなった。 
 あるいは。
 征一郎さんの目論見だったかもしれない。あたしに由弦の後を追わせない為の。