お宮参りから1週間ほどして征一郎さんが夜にウチに来てくれた。
 お祝いだと言って、ベビー服だの知育オモチャだのを両手に。

「征一郎さんて、わりと親バカになる素質あるかも」

「溺愛って言え」

 あたしがクスクス笑うと、上着を脱ぎベストとネクタイ姿の彼が眠りそうなちはるを抱き、あやしながら不敵に笑む。

「もちろん瑠衣子も込みで、だからな」

「それは嬉しいですけど。ホドホドにしないと自分の結婚できませんよ?」

「構わんよ俺は。一生、瑠衣子とちはるの面倒見るって決めてるしな。女には不自由してないし十分だろう?」

 涼しい顔して言い切るトコは、ほんと兄弟だなと思う。由弦もこういう言い方よくしてた。
 隣りでマグカップの珈琲に口を付け、苦笑い。


 あたしとちはるの面倒を見るっていうのは。もう既に実行してくれてるコトで。
 足りない生活費を毎月援助してくれてるし、ちはるの将来のため、あたしの名前で学資保険や生命保険も積み立ててくれてる。 

『・・・瑠衣子は何も心配しなくていい。由弦の代わりに俺がお前たち二人を守る。この先、死ぬまでな』 
 
 征一郎さんが真っ直ぐあたしを見据えて言ったのは、由弦が白い欠片に還ったあの日。
 現実を考えて、あたしは征一郎さんの厚意を全て受け容れようと即断した。
 今こうして何の不自由なくここで暮らせてるのは、何から何までが征一郎さんのお陰だった。

 ココロからの感謝を口にする以外、何も無いからそう言うと。
 厳しい顔付きで返ったのを思い返す。

『俺に礼はいい。遠慮もするな。瑠衣子には与えられて当然だ。お前が失ったものは、それでも足りないぐらいだって事を自覚しておけ』
 
 奪われたなら。見返りを求めて当然だ。って。



 だから。あたしは、征一郎さんにお願いごとをした。
 どうしても叶えたい望みを。