両親はいつでも実家に戻ってきなさいって。決して無理強いはしなかった。
 あたしは。たった3ヶ月でも。由弦と暮らしたこの部屋を離れる気はなかった。

 キッチンに立っててもどこにいても。由弦の姿を探して涙が出る。
 当たり前みたいにそこに在った笑い顔。・・・背中。

 時間が経てば経つほど。いないって現実に打ちのめされた。
 いつも隣りであたしを構い倒したソファにも。 
 寝る時にはあたしにくっついて離れなかったベッドにも。
 もうどこにも温もりがないのに。
 クローゼットにはスーツもシャツもぜんぶ残ってて。

 あたしが抱き締められるのは、由弦の残した抜け殻だけで。




 
 それでも。



 日増しに膨らんでくお腹に、あたしは心底掬われた。
 一人だけど独りじゃない。
 ちはるは、お腹を蹴っては。
 『ここにいるよ』って。『泣かないで』って。励まし続けてくれた。
 男の子だったら。『ドアホ』って説教してそうだった。
 
 
 この部屋は由弦で溢れてて。
 由弦の愛で出来てる。
 だからここで。

 ちはるを育もうって。決めたんだ。