由弦の最愛の女。

 征一郎さんがそう言った時。
 ・・・・・・ナニかが本能の片隅を震わせた。・・・気がした。
 
 ああ、あたしが・・・。その最期まで・・・見届けなきゃ。 
 最後まで。
 愛してること、・・・由弦に分かってもらわなきゃ。

 
 伝え足りないよ由弦・・・。
 あと100年叫び続けたって足りない。
 由弦からもらったもの在りすぎて、全然返せてないのに。
 これから。
 ・・・・・・全部これからだった。
 ずっと待たせてた由弦をあたしがこれからシアワセにするって。
 待たせた分、倍返しにするんだから覚悟して受け取ってよねって。


 なのに。・・・・・・もう。
 なんにもしてあげられない。
 葬(おく)ってあげることしか。
 
 こんな。
 これが終わり・・・なんて。

 
 ・・・・・・ひどいよ、由弦は・・・。
 勝手に先に逝くなんて。
 後も追わせてくれないなんて。
 ちはるを残して『まだ来んな』・・・なんて。
 
 
 押し寄せた悲しみと絶望の波に沈められて。
 嗚咽しながら力無く膝から崩れかけたあたしを。征一郎さんはしっかり腕の中で支えた。
 
「・・・最後にちゃんと由弦に別れの挨拶をしてやれ。瑠衣子」
 





 横たわる由弦の髪を撫で。頬を両手で包み込んで、おでこと鼻をくっつけ合う。 

「・・・・・・愛してるからね」

 何度も、・・・何度も。繰り返し囁く。

 忘れないで。
 憶えててね由弦。

 あたしには一生、由弦だけだよ。
 どうしても寂しくてしょうがなかったらね、ガマンしなくていいよ。迎えに来ていいからね・・・。

 きっと・・・ちはるも分かってくれる。 

 
 ナミダに濡れたまま頬ずりをした。

 それから唇に口付けを。

 
 この目に由弦を焼き付けたくて。
 最後の最後まであたしは由弦の顔を見つめ続けた。






 棺に納めるため葬儀社の人が中に入って行き、目の前で霊安室の扉がゆっくりと閉まった。
 頭では分かってるのに。手触りのない、現実じゃない映像が流れてく感覚。
 征一郎さんに抱えられながら引き摺られるように歩いてる、この人けのない病院の廊下も。・・・この日も。



 あたしは、死ぬまで忘れない。