「洋クン達、何時ごろ帰るかしらねー」

「由弦はあんまり遅くはなんないって言ってたよ」

 リビングでテレビを見ながらリラックス出来る体勢でソファに座り、他愛もないお喋り。 
 10時前になって切りよく番組も終わり、鈴奈さんが「そろそろ戻るね」と帰り支度。

「あ、グレープフルーツとトマト持ってかない? お母さんがまたくれたから」
 
「ありがとー、よろしく言ってね」

 他になんかあったっけ。冷蔵庫を覗いてると、後ろからスマホの着信音が鳴り渡った。このメロディはあたしのじゃない。

「あ、洋クンだ! ・・・もしもし?」

 あたしにちゃんと相手を知らせてくれた鈴奈さんが、嬉しそうに電話に出るのが聴こえた。
 スーパーのレジ袋にグレープフルーツを入れてると、テレビの音声に紛れて、鈴奈さんが話しながらリビングのドアを開けて廊下に出た気配。
 そりゃあたしに聴かれたくない話だってあるもんねぇ。洋秋が電話くれるぐらいだから、由弦もそろそろ電話してくるかな。
 ちょっと心待ちな気持ちになりながら、鈴奈さんが戻るのを待つ。
 
「洋秋達、帰ってくるって?」

 廊下からドアが開いたから笑顔を振り向けながら声をかけた。
 立ってた鈴奈さんの顔は蒼白で、今にも崩れて壊れそうに歪んで見えた。

「・・・鈴奈さんっっ?! どうかしたのっ?!」

「瑠衣・・・ちゃん」

 駆け寄ったあたしが鈴奈さんの二の腕あたりを両方とも掴むと。
 そのままあたしの両腕も掴み返され、鈴奈さんが怖いくらいに必死な形相であたしを見据え、声を絞り出した。

「・・・落ち着いてよく聞いて。由弦クンが襲われて刺されたって。迎えが来るから用意して、瑠衣ちゃん・・・!」
 
 ・・・・・・・・・え?
 
 言われた言葉の意味が分からない。
 由弦が、・・・なに?

「外、冷えるからダウン着よう。バッグどれ? お財布とスマホ持って! ・・・瑠衣ちゃんしっかり!! チハルちゃんの為にもっっ。瑠衣ちゃんしか、チハルちゃん守れないんだよ・・・っっ?!」


 


 そのときは。ちはるの為ってコトバしか聴こえなかった。 
 


 由弦が、・・・・・・どうしたの?

 

 なに・・・言ってるの・・・?



 刺された、・・・・・・って。



 だれが・・・・・・・・・?