案外いい時間になり、少し酔いも醒めたトコでお開きになった。
 洋秋があたしを送るって言ったのを由弦が押し切って。手を引かれながら、ほどんどはシャッターが閉まった通りを二人で歩いてる。
 明かりが灯ってる電飾看板は、深夜営業のお店だけ。人通りもそんなに無くて、この辺りをシマにしてる水上興業にとっちゃ死活問題だ。

 ・・・だから色んなモノに手を出すしかなくなる。この国の法律を破ってる洋秋達は立派な悪人。
 あたしには。ただの愛すべきオトコ達なんだけどね。
 

「瑠衣」

「なーにー?」

 半歩前を歩く由弦が振り返らずに。 

「・・・ヒロさん結婚するぞ」

 足が。止まった。
 腕が引っ張られた反動で立ち止まり、半身を振り向かせる由弦。

「・・・・・・・・・いつ」

 視線を逸らしてあたしは訊いた。

「・・・籍入れるだけって言ってたけどな。来月のクリスマスだってよ」

「・・・・・・そっか・・・・・・」

「鈴奈(すずな)さん、子供できたみてーでさ。親に結婚許してもらうまではって思ってたらしいが、もう30だしな」

 カチッって小さな金属の音がして、由弦の手元にはライター。上着の内ポケットからボックスの煙草を取り出しおもむろに火を点けた。
 やがて白く濁った吐息を長く逃す。
 

 洋秋と鈴奈さんは高校の同級生だった。
 彼女は普通の家の普通のお嬢さんて感じの人で。当然、家族に反対され、卒業してから駆け落ち同然でずっと同棲してた。
 マンションに遊びに行ったりするし、外で一緒にご飯を食べたり、鈴奈さんと二人で出かけたりもする。・・・お姉さんだ、大好きな。

 大人っぽくてしっかり者で明るくて。洋秋が彼女に惹かれるのも、よーく分かる。アパレルショップの雇われ店長さんをしながら、ずっと洋秋を支えてきた人。洋秋の自慢の彼女。・・・ううん奥さん。

 だからあたしの片恋はもうずーっと前から、絶賛失恋中なのだ。
 従兄妹同士なのは分かってる。でも好きだった洋秋が。
 しかも高校一年の時。バレンタインに告白して、すでにフラれ済み。洋秋は真剣に受け止めてくれて『瑠衣も、俺の大事な女だ』って。
 あれから本当に大事にしてもらってる、従兄妹として。

 鈴奈さんも多分知ってると思う。でも何も言わずに妹みたいに可愛がってくれてる。
 あたしは、この片恋を宝物にして取ってある。次の恋が、どっかからぽーんと降ってきたら潔く海にでも流してあげよう。・・・そう思ってる。
 今のトコ、どっからも降ってくる予定がないんだけどね・・・・・・。