お母さんがもったいつけて中から控室のドアを開き、由弦達を迎えた時。4人ともお互いに目を奪われて言葉に詰まってた。
 
「・・・・・・よく似合ってる」

 洋秋が目を細め、ようやくそれだけを言って。向かい合ったあたし達に淡く笑む。

 ライトグレーのフロックコート、ベスト、スラックスに、アスコットタイがチャコールグレーの洋秋。黒のテールコートにスラックス。ベストとタイは、シルバーの由弦。
 2人とも上背があるしバランスの取れた体格で、普段のスーツ姿もサマになってる。結婚式場のパンフレットに載せてもおかしくないぐらい、タキシードが似合う男たちで。

 髪を後ろに流してるせいで端正な顔立ちが引き立たってるし、あたしは目の前に立ってる由弦を見上げてしばらく惚けてた。
 由弦は由弦で、声をどっかに置き忘れてきたみたいにあたしをひたすらじっと見つめてる。

「・・・なんか言うコトないの?」

 照れもあって居たたまれなさについ。可愛くない言い方になった。
 
「・・・・・・・・・・・・・・・」

「由弦?」

 思わず眉を顰めると。やっと回路が繋がったみたいに由弦は切なそうに笑む。

「・・・一生、それ着てろ」

「毎日なんて見飽きるに決まってんでしょ」

「ねぇよ。・・・ドアホ」 

 あんまり愛おしそうに優しく笑うんだもん。心臓がきゅっとなって、こっちは泣きたくなった。
 見つめてる眼差しが『瑠衣』『瑠衣』ってひっきりなしにあたしを呼んでる。

「・・・責任取れよ瑠衣」

 フィンガーレスのレースグローブをしたあたしの左手を取り、これから指輪が嵌まる薬指に由弦が口付け。深く目が合う。
 
「お前ナシじゃ生きてけねぇんだからな。俺は」

 お互いさまって。言い返す前に、鼻の奥がつんとなって目頭が熱くなった。
 いま泣かすな、・・・バカ由弦。