旅行から帰った数日後の週末。由弦が正式にあたしとの結婚の挨拶で、我が家を訪れた。
 若頭らしく黒の三つ揃いにグレーのシャツ、白のネクタイ。髪も後ろに撫でつけて、それなりの風格も窺い見える。
 ちょっと口の悪いおばあちゃんは。

「あの鼻たれ坊主が、立派になったもんだね!」

 フンと鼻を鳴らしながらニンマリしてた。

「瑠衣を嫁に下さい」

 ソファに座りあたしの隣りで礼儀正しく頭を下げた由弦に、両親はそろって。

「どーぞ、持ってって! ユヅ君ぐらいしか、引き取り先ないからー」 

 廃品回収ですか、あたしは?

「由弦君の気が変わらなくて、良かったよ。いやぁ、感心感心!」

 ・・・自分の娘の結婚を相手のお手柄みたいにゆーな。
 


 一も二もなくあっさり承諾してくれた親に、来月のクリスマスに洋秋達と合同で身内だけのお祝いをしたいと話すと。

「なら、ドレスとお店はお母さんが探しておくから、任せてー」

 フラワーアレンジメントの仕事をしててウェディング関係の知り合いも多いだろう、お母さんの頼もしいお言葉。

「瑠衣子は荷物はそんなに無いんだろう? 引っ越しはトラック借りて、部下に手伝わせよう」

 電子関係の大手企業に勤めてるお父さんは、ものすごい公私混同な発言を当たり前みたいに言ってる。 

 でも最後は親らしく。お父さんが由弦に静かに頭を下げた。

「・・・由弦君。ふつつかな娘ですが、瑠衣子を末永く幸せにしてやって欲しい」

「命に換えて瑠衣は俺が守ります。必ず幸せにすると約束します・・・!」

 
 真っ直ぐに両親を見据え、力強く言い切った由弦を見て。
 あたしはきっと、最初から由弦と結ばれる運命だったんだろうなって。
 遠回りしたけどこれはこれで良かった気もしてる。
 未熟な若い内だったら由弦の大切さが染みてこなかったかも知れない。

 水上瑠衣子に生まれたこと。
 真下由弦に出逢えたこと。

 偶然でも奇跡でも。洋秋に恋したことも全部。

 心からありがとうって思えるくらい。
 あたしは今、なにより愛おしい世界に生きてる。