ごねる由弦を宥めすかし、走り出した車の中でややあって由弦が言った。

「・・・ヒロさん、お前に感謝してると思うぞ」

 鈴奈さんのコトなのは言われなくても分かった。 

「別に大したことじゃないよ」 

 小さく笑い返す。

「まあ引っ越しも重なるし、かなり忙しくなるんだろうけどさ。・・・あんたをこれ以上待たせとくのもね。だからちょうど良かったんじゃないの?」
 
 思ったままを言ったら、黙っちゃうからどうしたのかと横を見る。難しそうな顔して泣くのを堪えてるみたいな由弦に思わず手が伸びて、頭を撫でてやった。ヨシヨシ。

「洋秋達と一緒の結婚パーティなんて、一生の記念になるね。すっごい楽しみ!」
 
「・・・俺は瑠衣さえいれば何にも要らねぇよ」

 儚そうに微笑む由弦の横顔が何だか急に愛おしくなって。心臓がきゅんと切なくなる。

「あのさ、由弦」

 返事を待たずにあたしは続けた。

「洋秋のことは・・・ちゃんと整理ついて本人にも話したからね」

 あの『愛してる』は、『バイバイ』。恋心に付けたケジメだった。

「・・・・・・分かってる」

「愛してるけどイトコとしてだから」

「・・・しつけーよ」

 憮然としてハンドル握ったまま横目で睨む由弦に大きく吹き出す。
 それから。

「この世で一番愛してるあたしの男は、由弦だけに決まってんでしょ?」

 不敵な笑顔で堂々と宣言した。
 



 そのあとの行き先が由弦のマンションに勝手に進路変更されたのは、言うまでもない・・・。