「安里に行ってくるねー」 

 未だ嫁にも行かない娘を放って、両親とも自分の好きに仕事三昧。
 夕飯はだいたいが隣りのおばあちゃん家で食べるのが日常茶飯事になってるから、今夜は要らないと声をかけ出かけた。




「こんばんはぁ!」

「あらぁ、ルイコちゃん。いらっしゃーい!」

「ヤマト来てる?」

「奥の座敷にいるわよー」

 安里は昼間は定食屋、夜は居酒屋になる二刀流。子供の頃から家族で来てるし、学生の頃も由弦と放課後によく通った。親戚の家に遊びに来てる感覚だ。

 安子(やすこ)おばちゃんに笑顔を振り向けながらカウンターの前を通り、小上がりでブーツを脱いで座敷の障子戸を横に滑らせた。 

「お疲れっス、姉さん!」

「お疲れ、ヤマトー。あー由弦も」

「・・・ついでみたいに言うなドアホ」

「あんたはついでだし」

 座卓を挟み、奥の壁際に胡坐かいてた由弦の隣りにすとんと腰を下ろす。
 黒のスーツにチャコールグレーのシャツ、シルバーのネクタイ。こいつも立派な極道者。真下由弦(ましも ゆづる)。同級生で通学班も一緒だったご近所さん。

 子供の頃は洋秋と三人で遊び回り、中学高校は何故かいつも由弦がくっついて離れなかった。全く鬱陶しいオトコだった。
 ちなみにお兄さんが一人いて、征一郎(せいいちろう)さんもその筋のヒト。
 
 洋秋に比べるとちょっと顔立ちが甘めで、まあそこそこイケメンの部類とは思う。濃くも薄くもない丁度いいくらいの加減ていうか。性格は大雑把でがさつなクセに、上背もそこそこあって自分はモテるって自覚してるトコが嫌い。

「洋秋は?」

 さり気なく訊いたつもりだったけど、由弦の横目が憮然としてる。

「後で来る。呼ばねーとどっかのアホが煩ぇから」

「当然でしょ。由弦はどーでも洋秋さえいれば、あたしはいーの!」

 開き直って言い切る。あースッキリ。

「いい加減、懲りるって日本語知らねーのかよ」

「知りませんよーだ」

 あっかんべーをした。


 別にいいじゃん。洋秋が違う人を好きなの知ってて好きなんだから。
 ・・・それでも洋秋は、従兄妹のあたしを大事にしてくれるんだから。