「いらっしゃい!」

 夜の7時過ぎ、二人で洋秋のマンションにお邪魔した。 
 鈴奈さんがニコニコ顔で迎えてくれて、お土産を手渡す。

「好きそうなの、適当に買ってきたから洋秋と食べてね」

「ありがとーっ。わ、こんなに?!」

「ヒロさんのツマミに合いそうなのばっかりだけどな」

 由弦と顔を見合わせてあたしが頷くと。鈴奈さんが「なんかすっかり夫婦みたいね」と、悪戯っぽく笑った。


 リビングに入ってって、キッチンでフライパン振ってる洋秋の背中に声をかける。

「洋秋ただいまー」

「・・・おう。すぐ出来るから、そっちで鈴奈と待っとけ」

「はーい」

「ヒロさん、俺も手伝う」
 
「ならそっちのナス、酢味噌和えな」

 Tシャツにスェットってラフな格好で台所に立つ洋秋。

 もともと鈴奈さんの仕事の帰り時間が不規則だったから、自然と家事を手伝うようになったって。料理は男飯ってカンジだけど普通に美味しいし。そういうトコも尊敬してるし、惚れ惚れしちゃうんだよね。
 ちなみに。一人暮らししてるから由弦も料理する。・・・ヤバイ。他に勝てそーなのあるかな?

 シャツの袖をまくり、手慣れた風に包丁の音を響かせる由弦の背中。

「お互い料理上手なダンナを持って良かったわねー、瑠衣ちゃん」 

 ローソファに隣り同士で座ってる鈴奈さんが、わざと聴かせるように言ってクスクス笑ってる。
 
「目玉焼きが関の山でも俺は構わねーよ。気にすんな、瑠衣」 

 振り返りもしないで、しれっと言う由弦にあっかんべーをして。

 よぉし。おばあちゃんに料理の特訓してもらって、ゼッタイ由弦より上手くなる! 憶えてなさいよー!
 密かな闘志を燃え上がらせたあたしだった。