「・・・姉さん」

呼び方。・・・ヤマトに戻ってる。

由弦。
由弦。
由弦。

今度こそ行っちゃったんだね。
もう。会えないんだね・・・・・・・・・。


あたしはぐっと涙を堪えると、深々と息を逃して。おずおずと体を離した。

「・・・・・・ごめんね、ヤマト。ちょっと勝手にあんたの胸、・・・借りた」

つじつま合うかは微妙だったけど、ヤマトは憶えてないだろうと思って。

「違うよ。あげたんだから、好きな時に使いなよ」

愛しみの滲んだ、どこか大人びた声音。

「てゆーか、オレも遠慮しないから。・・・兄貴もそう言ったろ?」

え?

項垂れたままだった顔を思わず上げた。
目が合って、一瞬ドキッとする。
揺るぎなくあたしを見据える眼差しは。“弟”なんて言えないくらい、雄々しい光りを宿してた。

「ちゃんと聞こえてたよ。だからもう兄貴の代わりをやめる。一人の男としてオレが姉さんを幸せにする。ちーの父親になる。だから黙ってオレに惚れられてろ、瑠衣・・・!」


たぶん。息をするのも忘れたと思う。
自分でもよく分からないほどの衝撃だった。

ヤマトの気持ちは知ってた。
応えられないから、どうしようもなくて遠ざけようとしてた。
応えられないのに。家族ごっこを続けたい、寂しがりの自分が許せなかった。
ヤマトの気持ちにつけ込んでる自分が。一番イヤだった。

もし。ヤマトが“弟”の一線を越えようとしたら。・・・ううん、する前に離れようと思ってた。
それがヤマトの為だって言い聞かせてきた。のに。


「・・・・・・あっさり言ってんじゃないわよ、バカ・・・」


なんかもう。
一気に力が抜けた。
色んなモノが、ふっと。崩れ落ちた。

そしたらなんだか。笑いたくなった。

「も、やだ、どーしてくれんの・・・っ」

笑いながら泣いた。





由弦も。遠くで目を細めて、淡く笑んでる。・・・気がした。