洋秋の次でもいいから。由弦は言った。
 ほんとにねぇ・・・お人好しにもホドがある。
 洋秋なんか忘れさせてやる、とか。俺だけ見てろ。とか言っちゃえばいいのに。
 平気でキスするクセに、ずっとあたしの気持ちばっかり待って。初恋こじらせすぎだってのよ、ほんと。・・・ヤになる。 

「・・・・・・だから由弦はキライ・・・」 

 最後は鼻声になってたから泣いてるのがバレバレで。
 自分でもなんで泣いてるのか、全然わかんない。

 
 由弦に初めて告られたのは中二の時。『俺にしとけよ』って。洋秋が鈴奈さんと付き合いだしたのを知ったから。
 あたしがすぐに諦められないのなんて、分かってたハズなのにずっと。『俺がいる』って懲りもせず言い続けて。

 高校卒業した洋秋が鈴奈さんと一緒に暮らし始めて、もういい加減に吹っ切らなきゃって決心して。フラれて帰った時も、『俺にしとけ』。 

 一番あきらめが悪くて、一途で。

 人をアホだのバカだの言うわりに思い遣りがあって、優しいヤツで。誰よりあたしに惚れてて、ほんとはあたしだって。


 顔を上げた由弦が手を伸ばして、あたしの頬を伝う涙を掌で大雑把に拭う。
 儚そうに笑ってる顔が・・・やっぱなんかムカつく。

「瑠衣のキライは聞き飽きた」

「・・・・・・『大っ嫌い』」

「好きの間違いだろ」

「・・・うるさい」

「強情女」

 言いながら引っ張られてベッドの上に仰向けに。由弦があたしの顔の脇に両手をついて、しっかり押し倒されてる。

「・・・弱ってる女ヤるとか、サイテー」

 間近で見下ろされてるのを往生際悪く睨み返せば。

「もう待つのはヤメだ」
 
 茶化せないぐらい真剣な眼差しに射貫かれる。

「お前と結婚したい。・・・瑠衣」


 顔が寄ってきて。反射的に目を瞑る。唇に吐息が触れたかと思ったら。
 一気に口の中が、容赦なくしなやかに埋め尽くされる。 
 なんか。こんな風に。支配されるみたいなキスは初めてで。
 頭の中がどんどん熔けてく。白くなる。
 気が付けば由弦の首に両腕を回して、自分からも応えてた。

 離れる間も惜しむほど、ひたすらキスを繋げ合って。

 あたしと由弦にあった、どうにかなりそうでならなかった透き間が。
 十何年越しに埋まった。・・・かも知れない。ことにした、・・・マル。