「じゃあ姉さん、ちー、行ってくる」

由弦がそうしてたみたいに。ヤマトも毎朝、洋秋を部屋まで迎えに行って車で出かける。

「まー、ばいばーい」

短い単語でお喋りを始めたちはるは、いつの間にやらヤマトを『まー』って憶えてた。
ときどき『まま』って言ってるのか『まー』って言ってるのかビミョーなんだけどね。

「ちー、イイコで待ってなよ? 廉にあんまりチューさせちゃダメだから!」

玄関先でちはるを抱っこして、だらしないカオで頬ずりしてる水上興業の若頭。
後半は真顔で言ってます。

あたしも鈴奈さんも、カワイさあまって自分の子供にチューしまくるのを、やっぱり真似するんだよね、特に廉が。ってか、約二歳半児にヤキモチ妬くなー!
・・・って思うけど。由弦ならもっと本気で廉を威嚇しそうだもんね。内心で苦笑い。

「姉さんも、ナンかあったらすぐオレを呼びなよ?」

「ん、分かってる。気を付けていってらっしゃい!」

ちはるを下に降ろすと、あたしを軽くハグして笑顔でドアの向こうに消える背中。

由弦。
今日も洋秋とヤマトを守ってやってね。

いつでもどこでも傍にいて、あたしとちはるを見守ってくれてる愛しい男にそっとお願い。


「ちはるー。今日も元気で廉と遊ぼうねぇ」

「れんと、いくー」



ねぇ由弦。
朝は変わらずに、毎日やってくる。
ヤマトが『おはよう』って起きてきて、『ただいま』ってまたここに帰ってくる。
ちはるが元気にイタズラしながら笑って遊んで、ゴハン食べて寝て。

這い這いしてたちはるが、もう走り回るんだよ?
『あー』とか『ウー』が、ちゃんと日本語になってさ。結婚写真を毎日見せて、『ぱぱ』ってちゃあんと教えたんだから!

あたし頑張ってるよ。
ヤマトにも、洋秋や鈴奈さんにも支えてもらって頑張ってる。

毎日、朝が来るから。
由弦に背中たたかれて、『ちはるを頼むな』って言われてる気がするから。


あんたがいないのに、あたしは生きてる。
三年経っても。・・・何十年経っても。きっとそう思いながら、あたしは生きてる。