ヤマトはそこだけ憶えてなかった。
 何故かぽろぽろ涙を落とすあたしに、目を見開いてから。

「・・・ちーが風邪引くから帰ろう、姉さん」

 少し困ったように同じことを言って。指で涙を優しく拭った。





 意地悪しないでって言ったから。
 特大のクリスマスプレゼントを由弦はくれた。
 
 アイシテルの言葉なんか無くても。
 瑠衣って呼ぶ声にぜんぶ詰まってる。

  
 『大丈夫だ』
 『お前なら』
 『俺がいる』  


 『約束する』
 
 





 手を引かれて歩き出す。
 由弦よりちょっと柔らかくて大きい掌の温もり。
 どうしてもダメな時は。・・・この手が助けてくれる。

 洋秋も鈴奈さんも征一郎さんも。
 手を差し伸べて、力強く引っ張り上げてくれる。

 涙で霞んで足許しか見えなくなったら。
 由弦がいつだって掬ってくれる。

 
 あたしが。憎みきって、このセカイを捨ててしまわないように。
 
 




 ヤマトは。あたしの手をしっかり握り締めて離さない。
 少し前を行く凛とした背中に。言いかけた言葉を飲み込んで。
 気取られないよう微笑んだ。
 ありったけの愛(いつく)しみを込めて。

 そっと。握り返した。
   
  
 


【完】