その夜。洋秋から電話が来た。
 スマホ越しに深く頭を下げられてるのが伝わってきて。

「当然のことなんだから気にするなんて変だよ、洋秋」

 あたしはわざと明るく笑い飛ばした。

『・・・俺は瑠衣の為でも死ねるからな』

 切る前に深い声でそう言ってくれたのを。涙堪えるのがどんだけ大変だったか。 


 その後に、由弦からもあって。
 思わず。

「あんたら、二人してあたしを泣かすつもりなのっ?!」

 ブチッと電話切ったら10分と経たないで家に来るとか、ほんと、あんたもどんだけよ?

 外も寒いし部屋に上がらせる。
 夜の11時も過ぎて娘が男を家に上げてるって言うのに、リビングでテレビを観てた両親は呑気に由弦と挨拶交わしてた。

「・・・なんか飲む? コーヒー?」

 ベッドの縁に腰を下ろしたスーツ姿の由弦に訊ねる。

「いい。すぐ帰るし」

「・・・・・・何しに来たの、あんた」

 呆れて返す。

「いや・・・。お前の顔見に来ただけ」

 ベッドの向かいのパソコンデスクの前に座ってるあたしに、由弦が「来いよ」と目線でしゃくる。

「なによ?」

 億劫そうに移動してやって目の前に立つと。腰の辺りに両腕を回されて引き寄せられ、由弦の頭が自分の胸の下くらいにある。

「・・・鈴奈さん泣いて喜んでたって。あの人、ヒロさんの前でそんな簡単に泣く人じゃねぇのに。・・・ヒロさんも自分は何もしてやれなかったのに・・・ってお前に感謝してたよ」

「・・・うん」

「ばあちゃんに頼んでくれたの、瑠衣だろ? ・・・ほんと瑠衣は俺の自慢の女だよ。お前に惚れて良かった。・・・好きだ、お前が」

「・・・・・・知ってる」

 いつもみたいに突っぱねる気にならなかったのは。
 由弦が。あたしに真剣に伝えようとしてるのが分かったから。

「ヒロさんの次でもいいから俺を好きになれ、瑠衣。俺は絶対に、ヒロさん以上にお前を愛してやるから。・・・もう俺にしとけ」


 今までで一番心に響いて。染みて。消せなくなりそうで。
 悔しくなった。
 
 今までで一番男らしいって。思っちゃったよ。・・・・・・莫迦。