その晩。ヤマトにしては珍しく、もうすぐ日付も変わるって遅い時間にウチに来た。
 いつものスーツに黒のフードのコート。プラス、海外旅行にでも行くのかって大きめなスーツケース付きで。

「今から旅行?」

 いつもなら靴を脱いでさっさと上がるのに、ヤマトは神妙な面持ちで荷物と一緒に玄関で突っ立ったまま。
 首を傾げたあたしを見つめてから、おもむろに口を開く。

「・・・姉さん」

「うん?」

「オレをここに置いて」

「・・・・・・はい?」

 丸くした目を二、三度まばたき。オレを置いて、って。
 ここに住みたいってコト?
 脳が事態を飲み込むのに数秒。

 えぇと、あれかな、彼女と別れて追い出されたとか。 

「もしかして、かの・・・」

「じゃないから」

 きっぱり否定した真顔に見下ろされてる。 

 最近サッパリと髪を切ったら、甘い顔立ちなりに男っぽさが増したヤマト。若頭代理として若い子達を引っ張って、すごい頑張ってるって洋秋からも聴いてる。由弦にはまだまだ届かないけど頼もしくなったって。
 こういうコトを軽々しく言う子じゃないのは、あたしも知ってる。
 
 茶化すつもりは無いから吐息をひとつ逃して、ヤマトに答えた。 
  
「・・・とにかく上がって」