すっかり陽も短くなって薄暗くなりかけの頃、マンションに着いた。
 車を降りる前、洋秋はあたしの頭の上に掌を乗せ。

「・・・瑠衣には俺も鈴奈もいる。頼りにしろ、家族なんだからな」

 言って、大好きなカッコイイ男前の顔に穏やかな笑みを浮かべた。



 迎えてくれた鈴奈さんも満面の笑顔。肝心の娘は、天使の寝顔。
 夕飯も誘ってくれたけど、さすがにこれ以上は。深くお礼を言って、ヤマトと自分達の部屋に戻った。


「ヤマトもありがとね! ほんとに助かったわ」

「別にどーってことないよ」

 ちはるはまだ分かんないかも知れないけど、あたしがいなくて平気なのかなって心配もあった。
 鈴奈さん曰く、ヤマトに抱っこされてフツウに大人しかったらしい。

『ちーちゃんも分かってるんじゃない? 安心できる“パパ”みたいな人って』
 
 鈴奈さんは笑ってたけど。
 ちはるをベビーベッドに寝かせ、柔らかい髪を撫でてやりながら。困った溜め息を漏らす。

「・・・でも、ちはるのパパは由弦だからねぇ?」
 

 
 ソファでスマホをいじってたヤマトは、いつの間にかキッチンに立って小気味よく、包丁でリズム刻んでた。
 ジーンズ履いた私服姿だとやっぱり今どきの子で。家政夫やらせとく場合じゃないなって、内心で苦笑い。
  
「あたしがやるよ、ヤマト。今日はあんたに子守り押し付けちゃったし」

「・・・オレより姉さんのほうが疲れてるだろ。休んでなよ」

 隣りに立ったあたしにヤマトは手を止め、顔を向けてこっちを見た。
 笑って見えたのに、眼差しだけがやけに真っ直ぐあたしを貫くから。一瞬、心臓が跳ね上がった。
 ヤマトは知らないはずだ。あたしと洋秋が何をしに行ったかは。 

「ゴハン食べに行っただけで疲れるワケないでしょ」

 冷蔵庫を覗くふりで、わざと軽口。

「ナニ作るつもりー? ・・・あっ、エリンギも使っちゃわないとダメになりそ!」

「ムネ肉、塩麴で漬けてる。ハンパな野菜さ、味噌汁にしちゃえば?」

「んー、そうねー」


 さり気なく会話を交わしながら。頭は別のコトを考えてた。
 



 ヤマトがどう言おうと、・・・もうここに来させるべきじゃない。