「・・・瑠衣の様子が少し変だとは思ったがな。俺には・・・由弦の声は聴こえなかった」

「・・・そっか」

「瑠衣だから聴こえたんだろう。どうしてもお前に伝えたいことがあったんじゃねぇのか、由弦は」

 洋秋は力強くそう言った。
 


 愛してる。って。何度も聴かせてくれた。耳の奥に響くように。
 
 ねぇ由弦。
 心残りだった? 心配だった? 置いて行くに行けなくて、ほんとはずっと傍にいた? あたしにあんなマネさせたくなかった? 

 カプセルは掌の上。でも何も答えてくれない。

 あんたがいきなりいなくなって、なんにも無くなっちゃって。
 辛くて、つらくても。ちはるがいるから死ねないだけだった。
 不安で心細くて、逢いたくて声が聴きたくて。
 毎晩、一人になって寂しくてベッドで泣くから。

 ・・・教えにきてくれた?

 見えなくても俺はいるって。

 あたしとちはるをこんなに愛してるって。
 
 見ててやるから、前見てそのまま真っ直ぐ歩いてけ。・・・って。 
 

『瑠衣』 
 

 あの時の声が蘇る。
 優しく包み込んで、しっかりしろって励まされた気もする。



『俺はここにいるだろうが。・・・ドアホ』


 
 風が通り抜けてくみたいに。由弦の声が。ふいに耳を掠めた。
 ほんの一瞬の出来事。
 今の。笑ってた・・・?
 
 あたしは目を見開いて見つめる。小さな小さな手の中の由弦を。


 
「・・・・・・うん・・・。ありがと、・・・由弦」 
 
 

 両手でペンダントをそっと抱きしめる。
 
 そうだね。
 あたしに死ぬほど惚れぬいて、娘を溺愛してる男だもんね。
 死んだくらいじゃ離れるわけないよね。

 胸のうちでクスリと小さく笑みをほころばせた。




 ずっと。暗い沼底を泥に脚を取られながら。少しずつ進んでるようで、その場でもがいてるだけだった。
 なんとなく。薄明るい方角が見えてきた気もするから。そっちに向かってみようかと思う。

 まずは帰ってちはるを抱き締めよう。
 とびきりの笑顔で笑いかけよう。

 由弦と一緒に。