長居は無用だとあたし達を促す征一郎さんには。どんな感謝の言葉も足りないぐらいだった。

「・・・いつか必ず恩返しします」 

 深く頭を下げたら、顎をクイと持ち上げられて不満げに見下ろされ。

「俺に何度も同じことを言わせるな。礼だの恩だのは必要ない。瑠衣子は黙って甘やかされてろ。出来ないなら躰に分からせるぞ・・・?」

 最後にすっと細めた眼差しは間違いなく。本気だった。
 征一郎さんが相手だと由弦が全然カワイイ男に思える・・・なんて。
 言ったら由弦はやっぱり怒りそう。
 




 倉庫を後にして、車はあたし達の街に向かって走る。
 同じ道を戻ってるのかよく分からない。見覚えのない景色が流れ去ってくのを、ただぼんやり眺めてた。
 
「・・・疲れたか? 眠ってていいぞ」

 運転しながら洋秋がやんわり言う。

「うん、・・・大丈夫」

 あたしは窓の外を見やりながら、胸元で揺れる銀のカプセルに手をやった。 

「・・・・・・ねぇ洋秋」

「ん?」

「・・・撃つつもりだったんだよ、あたし」 

 唐突に言ったのを洋秋は黙ってその先を待っててくれてた。

「由弦がね。・・・止めたって言ったら・・・洋秋は信じる?」

 そのまま間があって。おもむろに返る。

「そうだな。・・・由弦なら止めたろうな」
 
 肯定とも否定ともつかない、願望にも受け取れる答え。
 あたしは続けた。

「声が聴こえたの。瑠衣って。・・・気が付いたら手から銃が落ちてて。由弦にちょっと怒られた・・・」 

 目を落とし、愛おしむように指先でカプセルをなぞる。
 陽射しに反射したのか一瞬、銀光を煌めかせた。気がした。