「・・・瑠衣」

 横から洋秋の気遣うような静かな声。地面に崩れ落ちてたあたしの肩を抱き、労わるようにゆっくり立たせる。

「片は付いた。・・・もう終わりだ」

 頭の上に乗せられた大きな掌。あたしの髪を撫でる、現実の温もり。
 張られた膜が熔けたみたいに。無音だったセカイは元通りに。
 埃っぽい臭い、雑多な重低音。ナニも変わってない。

 だけどもう。聴こえない。
 あたしを呼んだ由弦の声は。


 洋秋は、最後の最後で躊躇ったと思ったのか。
   
「お前が手を汚して褒めるような男でもねぇだろう。・・・由弦は」  

 穏やかな響きでそう慰めた。


「あとは俺に任せればいい。たっぷり生き地獄を味合わせてから、サメの餌にでもしてやる」

 前に立った征一郎さんを見上げれば。冷酷な猟人の眼差しで口許を緩めてた。

「・・・・・・ごめん、なさい。・・・あたしがお願いしたのに・・・」

 警察の目だってあったハズだ。なのにリスクを承知でここまでしてくれた。台無しにした申し訳なさでいっぱいになる。
 項垂れたあたしの頭を今度は、征一郎さんがやんわり撫でた。

「瑠衣子は綺麗なままでいろ。・・・ちはるの為にもな」