そこは別に山奥にひっそり建ってる廃倉庫でもなければ、刑事ドラマに出てきそうな海沿いの倉庫街でもなく。普通の県道沿いに、配送センターやら資材置き場やら工場が密集してる地帯の一画だった。
 目の前を普通にトラックや車が行き交い、あたし達の車が敷地内に進入したって誰も気に留める人もいない。・・・木を隠すなら森の中。

 走り去る大型車の重低音や、どこからともなく聞こえる機械の操縦音が、天井の高い古びた倉庫の中にも唸り声みたいに響いてくる。
 今は使われてないのか、端の方に積み上げられたパレットの山が幾つかあるだけ。奥には事務所だったのか休憩所だったのか、小さめのプレハブ造りの部屋が見えた。
 埃と土と、古くて淀んだ空気の臭い。上の方は両側とも換気窓が横一列に並んでた。そこからの採光で倉庫内は程よく薄明るい。


 1時ちょっと前に到着した時には白い業務用のワゴン車と、営業車によくある車種の車が既に停まってた。
 あたし達が乗り換えて来た車も、征一郎さんの指示で実は営業車タイプだ。これなら目に付いたとしても怪しまれない。見て納得した。
  

「瑠衣子」

 洋秋の後ろをついて中に入ったあたしの目の前には、黒いコートの下にチャコールグレーの三つ揃いと、モスグリーンのネクタイを覗かせた征一郎さんが立ってる。
  
「・・・・・・征一郎さん」

 目が合って。彼は手を伸ばすとあたしの頬にやさしく触れた。 

「お前が直接、手を下す必要はないんだぞ? 俺に任せたっていい」 

 見下ろす眼差しは静かで。あたしを想って言ってくれてるのは十二分に伝わってきてた。 
 でも。首を横に振りぎこちなく笑む。

「あたしじゃないと・・・意味がないから」

「・・・そうか」

 そう答えた征一郎さんは頬に手を添えたままで少し身を屈め、あたしのおでこに軽くキスを落とす。

「後始末は気にするな。瑠衣子の気の済むようにしろ」


 もう一度、目が合った。
 闇の気配をまとい、獲物に牙を突き立てた獣のような眼と。