お店を出る前、レストルームできちんとお化粧直しをした。
 これから対峙する相手に、最初から涙の跡なんか残して侮られたくない。
 唇にオレンジ系の口紅を引きグロスを乗せる。ナンかの漫画で読んだ。紅を引くのは女の戦(いくさ)装束。
 
 さっと上から身だしなみを整え、ワンピースの下に首から下げてるペンダントを服の表に見せた。
 チェーンもすべてチタン製で、ヘッドは3センチに満たない銀色の小さな円柱型のカプセル。『Y・M』の刻印。・・・・・・由弦の欠片が入ってる。
 
 あたしは胸元の辺りでそれをきゅっと握りしめ、瞑目した。
 特別な時だけ身に付ける最強のお守り。
 祈りを捧げるように。口許に寄せ、そっと口付ける。

「・・・・・・・・・由弦。見てて・・・・・・」  

 想いを吹き込んで。・・・ありったけの愛を込めて。


 最後に。左の薬指にはまるプラチナリングにもキスを落とし。
 あたしは顔を上げ、背筋を張った。



「・・・お待たせ」

 先に出て、入り口の外で紫煙をゆっくりと逃してた洋秋があたしに一瞬目を細めてから、「行くか」と仄かに笑む。
  
「うん」

 
 ちはる。・・・待っててね。
 終わらせたらすぐに帰るから。

 力強く頷き返し、車に向かって歩き出す。 



 銀色の光を時折りちらつかせながら胸元で揺れるペンダントを。いつの間にか無意識に右手が握りしめたまま。 

 やがて車は、とある倉庫へと。辿り着いたのだった。