洋秋の言葉に。あたしは堪えきれず小さく肩を震わせた。
 こんな場所で泣いたら洋秋が好奇の目に晒される。分かってても涙が止まらない。

「・・・ごめ、・・・ひろ・・・」

「気にするな」

 相変わらず優しいイトコ。 



 ねぇ由弦。

 あたしが意地張って、可愛くないコトばっかり言ってたのも?
 『うるさい』『キライ』が口癖だったのも?
 まるで当てつけみたいに、わざと洋秋にべったりしてたのも?
 飲んだり食べたり、他愛もない思い出ばっかで。
 特別な思い出なんて一個も!
 
  
 そんな10年でも・・・?
 かけがえのない時間だったって。
 あんたは思ってくれる・・・?

  
 目ぇ細めて口角上げて。不敵そうなカオで。
 笑ってくれる・・・?

  
 
『決まってんだろ。・・・ドアホ』

 
 瞼の裏に浮かぶスーツ姿の由弦は煙草をくゆらせながら。
 愛おし気に・・・ほくそ笑んでた。