「いや、付いてないです。俺、五十嵐織人って言って、隣の306に越してきました。これ、つまらないものですが」
織人、と名乗ったその人は、あたしより20cmぐらい背が高くて、多分180何センチかありそうで、彫りの深い濃いめなイケメンさんだった。
顔に似つかない、律儀な人だな。
いや、人の顔見てうわ、って言ったからそーでもないか?
「わざわざありがとうございます。307の柊時雨です。なんか困ったことあったら言ってください」
当たり障りのない挨拶をして、五十嵐さんは帰って行った。
あたしもドアを閉めて、手土産の中身を覗いてみた。
「お、有名なケーキ屋さんのバームクーヘンじゃないか!コーヒーあったかな?」
手土産にテンションが上がっている中、間髪入れずにまたインターホンが鳴った。
「どうしましたー?」
五十嵐さんかと思ったら、
「なんだ?医者の検診みてえな挨拶だな」
「なんだ、豪か」
「なんだとはなんだ」
文句を言いながらも、慣れたようにあたしの部屋に入っていく。
高そうな革靴は、綺麗に磨かれていて、存在感を放っている。