「時雨」


「ん?」



「バスが怖くないって言ったら嘘になる。でもね、時雨と友達になれたから、プラマイゼロなの。ううん、黒字だね」



あたしの心を読んだのか、と言いたくなるようなタイミング。
柚姫は真っ直ぐに前を見て、静かに話す。


「何それ」


「いつも、いつも、時雨には感謝してる。大好き」


あたしの顔を見て、満面の笑みでそう言う。


「うわー、何可愛いこといってんの」


「だからね?時雨も困ったことがあったら言って?絶対に。我慢して、あたしに内緒にしたりしたら嫌だよ」


あたしを心配そうに見て言う柚姫に、心が軋む。


「いつでも言ってね」


柚姫が降りるバス停に着き、別れる。



内緒にしたら、か。



あたしの降りるバス停に着き、バスを降りてマンションに向かう。


柚姫に内緒にしてる事、あるな。

でも………



ポタッ



ああ、最悪。



地面にひとつのシミを作った雫は数を増やし、一面のアスファルトが色を濃くする。


荒くなりそうな呼吸を、深呼吸をして抑えながら一歩一歩前に進む。


パッパーーーーーッ


「ヒュッ、ッハ」


ダメだ、息ができない。


足に力が入らなくなって、崩れ落ちる。

頭に、酸素が、