手のひらをあたしに向け、ふっと笑ってから帰っていった滝田先輩。
あたしはマンションに向かい、部屋に歩く。
「良い人を絵に描いたような人だったなー」
人付き合いをあまりしないあたしでも分かる。
「お前」
前から声がして、声の方向を見ると、廊下の壁に背をもらたせてあたしを見る五十嵐が居た。
「何考えてんのか知らねえけど、あいつに危害加えるなよ」
相当あたし、嫌われてるんだなー。
なんかしたかな?
「加えませんよ。あんないい人に危害なんか加えたら、返ってきそうですもん。特に、あなたから?」
ふふっと、笑うと眉間のシワが一層深くなってしまった。
「冗談ですよ。もしかして冗談通じない人だったりします?」
「冗談に聞こえねえ。何考えてる」
深読みしすぎだよ。
「多分、あなたが思うより、あたし何も考えてませんよ。今考えてるのは、夕飯のおかずぐらい」
それを聞くと、これ以上聞いても無駄だと言いたげに、すたすたと部屋に歩いていってしまう。
「滝田先輩をもし好きにならなかったら、傷つけてしまうかもしれません。その時はごめんなさい」
これは本気で、頭を下げて言った。
少しの沈黙が続き、すぐに足音が遠ざかっていった。
