手で口元を抑えてそっぽを向いてしまう先輩は、耳まで真っ赤。
その隣にいる五十嵐織人は、冷たい目であたしを見ていた。
この人はまあ、信じないだろうけど。
「あたし、その噂のせいでお願いしたらヤらせてくれるって思われたり、本気で好きって告白してくれたりする人が全くいなくて。だから、滝田先輩の告白、結構嬉しかったんです。まあ、滝田先輩を恋愛として好きになれるかはまだ分からないし、誰かと付き合ったりすることもしたことないし、」
「えっ、嘘だろ?」
まだ話の途中だっつうの。
「何がですか?」
「もしかして、彼氏いない歴」
「16年ですけど何か」
「まじかよ。」
「そんなに意外ですか?」
小学生の頃なんかもちろんないし、中学はまともに学校行ってなかったし、そんな色恋沙汰なんかなかった。
「それにしちゃ、男慣れしてんなあって、」
豪だな。
「あたし、結構男っぽいんです。育てられてきた環境に男の人が多かったので」
話をしている内に、マンションに着いた。
歩いてここまで来るの、初めてかも。
