成瀬桜雪(なるせさゆき)は学校帰り、
駅の外でスマホを触りながらバスを待っていた。


昼間は暑かったけれど、もう秋だ。

夕方になると寒くなる。


桜雪は、今日、羽織るものを持ってきてはいなかったが、駅の中に行くのが面倒で仕方なく外でふるえていた。


─バサッ


ふいに視界が暗くなった。
何かをかけられたようだ。



「そんなとこいたら風邪ひくぞ」



桜雪は声から佐々岡だと推測した。



「佐々岡?」



取ってみるとそこには野球部で隣のクラスの佐々岡汰一(ささおかたいち)がいた。



「おう。相変わらずめんどくさがり屋だな、成瀬は。こんな所にいたら寒いだろ。俺ので悪いけどそれ着とけ」


「悪いよ」


「俺のじゃ嫌か」


「いやそういう訳じゃなくて、佐々岡が風邪ひいちゃう」


「俺は、馬鹿だから大丈夫。お前が明日来なかったら俺が困るんだよ。それじゃあな」



佐々岡は笑ってそう言うと、やはり寒いのか、足早に駅へと向かった。

桜雪は慌てて「ありがとうー!」と叫ぶと佐々岡は手をひらひらさせた。


『お前が来ないと俺が困る』とはどういうことか気になったがそんなこともすぐ忘れた。


佐々岡のジャンパーはとてもあたたかかった。