「東雲、キスしたい」



そう言ったのは、紛れもなく、窓にもたれかかってこちらを見ている、英語の教科担任で義理の兄の東雲隼人(しののめはやと)だった。


そして東雲有紗(しののめありさ)は今日提出しなければならない課題に取り組んでいた。



有紗が先生に出会ったのは
中学1年生のとき。
有紗の母と先生の父が再婚したときだった。
再婚すると聞いた時も兄ができると聞いた時も、そして実際そうなった時も、有紗は何とも思わなかったと記憶している。


対して隼人は、妹ができることを喜んだが、その喜びはすぐに終わった。

彼女があまりにも容姿端麗で、
彼の好みにドンピシャだったからだ。

だから念の為、大学卒業するからと理由をつけて、ひとり暮らしを始めた。



ただ、それが変わったのは有紗が高校1年生になったときだった。


隼人は有紗が進学した高校で英語の教師をしていた。
彼女はそれを知らなかった。
そして彼も彼女がここに進学するなど聞いていなかった。


両親がなぜその事を言わなかったのか今でもわからないが、
有紗は教師である隼人にだんだんと惹かれていった。

そして、隼人もまた、有紗に惹かれていた。


お互いの気持ちを隠したまま
高校3年の夏になり、
隼人はついにこう口にした。


『俺はもう無理だ。有紗が好きだ』


対して有紗が返した言葉は


『卒業まで待ってくれますか』



兄と妹になったとはいえ、
血は繋がってない。

そして同居したのも1年間だけ。

だから、3年後再会して惹かれ合うのも
無理はない。

たまたま兄妹になっただけ。


ただ、今は教師と生徒。
その関係の上に恋仲になってしまうと
世間の目は冷たいことを
有紗は知っていた。