雨の匂いが漂う教室で高山亜蓮(たかやまあれん)は溜息をついた。



「あれ?まだいるのか?」



そこへ、部活が終わったらしい幼馴染の三波舞人(みなみまいと)が来た。



「傘忘れたの」


「今日の予報晴れだったし折り畳み傘は壊れてるし」



窓の方を見ながら亜蓮は言う。

さすがにこの雨の中傘なしで帰るのはきつかった。



「俺傘あるけど入ってく?」


「んー、通り雨だと思うから止むの待つよ」


「じゃあ、俺も待つ」



そう言って舞人は亜蓮の斜め前の席に腰を下ろした。



「部活は?」


「終わった」


「なんで教室に来たの?」


「…忘れ物取りに来た」



それから短いが長くも感じる沈黙を過ごすと、チャイムが下校時間を告げた。



「…雨止まないね」


雨は相変わらずの強さで静かに降り続いている。


「俺の傘入ってけよ」


「そうする」


帰り道もまた短く長い沈黙が続いた。


「あ、雨やんだな」


そう言って舞人は足を止め、傘を閉じた。

亜蓮が空を見上げると、雨は止んでいて、遠くの方は綺麗な茜色に染まっていた。



「そうだね」



亜蓮は傘を閉じてからも何も話さない舞人見た。


舞人の顔は夕日のせいか赤くなっているようにもみえる。



「そんなにじっと見ないでくれる?」



亜蓮は長い間舞人のことを見ていたらしい。

これは亜蓮の悪いクセだ。



「そんなに見られたら照れるんだけど」


「あっ、ごめん」


「ん」


「ねぇ、そういえば、忘れ物ってなんだったの」


「…亜蓮」


「え?」


「亜蓮と帰りたかっただけ」



舞人はそう言ってスタスタと歩き始めた。


亜蓮は、舞人の赤くなっている耳─今度は確実に─をみてからその後を続いた。


亜蓮は静かに満面の笑みを浮かべていた。