「ねぇ、奏羽は今まで彼女できたことないよね?」



一之瀬あゆ(いちのせあゆ)と馬渡奏羽(まわたりかなう)は、大学のカフェで、向かい合って座っていた。


幼馴染で幼稚園から一緒にいる2人だが、今でもこうしてたまに2人で話をするのだ。

別に友達がいない訳では無い。
何でも話せて楽だからだ。

少なくともあゆはそう思っている。



「ん」



奏羽はかなり無愛想。
あゆはさすがにもう慣れたというか、
これが通常運転というか、
とにかく問題ないのだが、
初対面の人にはどう感じているのだろうといつも不思議だ。



「ということは、勝負はまだついてないよね」



2人は高校1年生の時からどちらが先に恋人ができるかという勝負をしている。

なぜそんなことになったかは、もう覚えていないが、少なくともあゆはくだらないルールだけははっきりと覚えている。



「あれ、まだやってたのか」


「え、やってないの?負けた方はアイスだよ?」


「やってるの俺だけだと思ってたから」


「そんなわけない!…というか、ちゃんと覚えてたんだ」



あゆの顔がほんのりピンクになった。



「でもさ、何で、奏羽は彼女作らないの?」



奏羽はたしかに無愛想だけどイケメンでスポーツも勉強もできる。
だから、そんな奏が告られていないはずがない。



「好きな人がいるから」


「え!そうなの⁉全然知らなかったんだけど、誰⁉」


「ヒント1、いつも俺といる」


「麻美(まみ)ちゃん?」



“麻美ちゃん”は、いつも奏羽のそばにいる。
きっと奏羽のことを狙っているのだろう。



「違う。ヒント2、可愛い」


「んー、麻美ちゃんじゃないならー。あ、琴子(ことこ)じゃない?」



琴子は、高校からのあゆの親友で、大学生になった今でも一緒にいるから、自然と奏羽も話す機会が多い。



「琴子さんじゃないよ。じゃあ最終ヒントね。目の前にいる」



そう言って奏羽はあゆを指さした。



「えっ?」


「ん。ずっと好きだったよ。あゆ」



真剣な目で、かつ、優しい声で。



「え、ちょっと待って…」


「なに?」


「何で?いつから?」



あゆの頭には次から次へと疑問が湧いてくる。



「とりあえず、落ち着いて。深呼吸ね」


「すぅーーーーはぁーーーー」


「いや、意味わかんない」


「返事は?」


「もちろん私も…好きなんだけど…」


「俺があゆを好きになったのはいつかわからないけど、気づいたら、隣にいるのはあゆじゃなきゃ嫌だと思った。だから誰とも付き合わなかった」


「私は…ずっと好きだったから、奏羽が彼女つくるの待ってた。奏羽が彼女作れば諦められると思ってた…」


「勝負は引き分けだね」



普段あまり笑わない奏が少し笑った気がした。