「おや、アレクの坊やはもう帰ったのかい?」
「ふぉ、ふぉ。
 ウルーチェ。坊やもすっかり15歳の青年だぞ。」

「なーに 言ってるんですか。アレッサンドの坊でしょう?
 まだまだ ひよっこでしょう?」

ふふふ。と笑ってウルーチェは
お茶をテーブルに置いた。
そして、赤いローブをふわりと払って
先ほどまでアレッサンドの座っていたソファに腰かける。

「そうじゃのぉ。ウルーチェ。
 フラン王子はどうじゃ?」
「うぅーん。そうですねぇ。」

赤いローブの中から ころんと綺麗な飾り細工で彩られた
鏡を取り出す。ぽう、と静かに光って ぼんやり映し出されたのは

ただ今、絶賛 捜索中の「フランチェスコ王子」

楽しそうに歩いている姿だ。

「ふぉふぉ。移転魔法すれば 早いのにのぉ。」
「旅を、楽しみたいのでしょう。
 ふふ。改めて、大きくなりましたねぇ。フランの坊やも。」

ウルーチェは 柔らかい笑顔を浮かべた。
見た目は3,40代の美女、といったたたずまいのウルーチェだが
実際は目の前のバームスと同級生だ。

アレクもフランも 誕生の時から見ているし
見守っている。

何なら、現王の成長も見守り、この国に仕えている重鎮だ。

フランにとって ウルーチェもバームスも
薬草や魔術のことを 教えてくれる「先生」でもちろん尊敬しているが
現役時代の彼らを知ったら、びっくりするかもしれない。

「ちょっと、ぼーっとしてた
 どこか、魔力が落ち着かない子だと思っていたフランの坊やがねぇ。」
「そうじゃのぉ。まさか 飛び出すとはの。
 あぁ、逃亡・・・亡命・・・うぅーん。どれかの?」

「そうね。家出でいいんじゃないかしらねぇ。」

それを聞いたバームスは楽しそうに笑って
お茶を一口のんだ。

「それにしても、バームスは『アローちゃん』に厳しいんじゃないの?」
「ふぉふぉ。ジゼディシアローは いずれ わしの後を継ぐ予定じゃ。
 これくらいの、策略見抜けなくては困るしの。
 大体、ジゼよりアレッサンド王子が先に来たのが不満じゃのぉ。」

まったくじゃ。
と言いながら不服そうに拗ねるバームスに
ウルーチェは苦笑した。

貴方が本気で逃亡を手伝ったら
誰にもわからないでしょうに。

ジゼもなかなか苦労しそうね。

「あら、そのご希望のお孫さん、いらっしゃたみたいよ。」

バタンっ。

「くっそじじぃ!!!」

扉が勢いよくあいて
いつもの取り澄ました側近の「ジゼ」ではなくて

元気いっぱい扉を開けた、バームスの孫の「ジゼディシアロー」がいた。