それからの騎士タイラーはものすごく、忙しかった。

魔力を練りこんだ糸を編み上げて
髪色を変える術を込める。
一気にはできないので、少しずつ、時間をかけて。
糸に繊細に魔力を細く入れ込んで、
それを編み上げる。

侍女のサーラさんに頼んだらもっとカッコよく組紐にしてくれるんだろうけど
これは秘密の作業だから、オレのつたない三つ編みのひもで我慢してもらおう。
と、思ってたら ジゼディシアロー様がそっと
「この紐のほうが魔力がよく通るからつかえ。」
といって白い糸を持ってきたのにはマジでビビった。
そのあと、しぃっと人差し指を立てて、笑ったのはさらに驚いた。

きっと、
あの人に内緒にすることはできないっす。

ちなみに、王子が行きたいのは、
冒険者ギルドと 花屋らしいっす。

「昼食と休憩と人員交代の時間に、ここに3時間ほど滞在するからな。」
と、事前にジゼディシアロー様が オレだけに地図に印をつけられた。
うん。オレ ジゼディシアロー様に逆らうことだけはやめるわ。

と、いうわけで、
事前に道にオレの魔力を隠し通して いつでも王子を警護できるように魔石を埋めて・・・

というか、なんで
わざわざ、ギルドなんて・・・庶民の行くようなところ。
用事や、討伐の依頼とかなら 王宮からでもいいのに。
しかも、花・・・??
なんでだろー。わかんねぇなぁ。

「セーラ、気分転換に少し 散歩してくる。次の先生は?」
「はい。地質学の講師でございます。」


いつもの、勉強の時間の合間、
少し席をたつフランチェスコ王子。
ちらり、と 騎士ビラット様を見て、軽くうなずく。
王子がこちらに来る前に軽く扉を開けて
その後ろから数歩 離れてついていく。

「中庭にでてもいいか?騎士タイラー。」
「はい。では、守りの術を・・・」
「ははは。騎士ビラットに似てきたなぁ。騎士タイラー。」
「っ!別に、その、過保護なわけじゃ、き、決まり・・・でして」

フランチェスコ王子は ニヤリ、と笑った。
焦るオレが面白かったらしい。

中庭には心地よい風が吹いていた。

「で?例の件はどうなってる?」
「順調ですが、なぜギルドと花屋かお聞きしても?」

「ギルドは、単なる興味だなぁ。
 花屋は、セリィが今度誕生日だろ?その贈り物。
 あ、これは秘密な。」

と、顔を赤らめて教えていただいた。
てか、セリィ様は婚約者・・・候補になったんだよな。
「・・・王子。
 モンレ公爵家のご令嬢のセリィローズ様ですよね?
 王子が望んで、婚約を・・・破棄なさったと・・?」

あれ?
伝わっている情報と違うのかな?
「す、すいません。よけないことを」
「ははは。騎士タイラー二人っきりだから、別に言葉崩してもいいよ。
 俺も気ぃ張ってるの疲れるし。
 セリィは・・・そうだよ。俺から婚約を破棄した。
 だから 王宮から俺がセリィに花を贈ったら
 婚約を望んでいるみたいで 余計なトラブルになるだろう?」

・・・?
意味が、わからない。
嫌いというか、性格が合わないとかで 婚約を破棄したいと
王子から仰ったんだろう?それを どうして?

「騎士タイラー、顔に出てるぞ。どうして?って」
「す、すいません。」
「いいって。俺、セリィのことは嫌いじゃないし。
 せっかくの誕生日に花を贈りたいーーと思うくらいには気に入ってる。
 どうせだったら ついでに、自分から・・・
 フランチェスコ第二王子からじゃなくて 「フラン」から贈りたい。」

といって、ふっと 少し はにかんだように笑った。

瞬間、王子の表情が曇って、すぐにいつもの「王子様スマイル」を浮かべて
オレの後ろに軽く手を挙げた。

「ジゼ。ここだ。」

ジゼ様が駆け寄ってこちらに向かってくるのが見えた。
オレは体を後ろに引いてジゼ様に軽く礼を取る。