もう一つの用事は 花屋さん。

これもいい具合に神殿の近くだ。
しかも、侍女たちが噂していた
おしゃれなアレンジをしてくれるらしい。


地図を見比べながら確認。

ぐるりとまわりを見回す。
中世ヨーロッパ的な街並み。
でもアスファルトでもない、レンガとかでもない
ちょっとふわりとした ふみ心地のタイルが敷き詰められた地面。

馬車とかいれば
雰囲気ばっちりなんだけどな。

残念ながらその概念はないらしい。移動は大体移転魔法だ。

3人の魔術師がいれば
移動できるしな。

魔力がない人だって
移転魔法の『石』や『魔法陣紙』は売られているから
それを利用したりする。

えぇ、馬車移動じゃないのか。とちょっと がっかりしたのは内緒。

まぁ、移転スポットは決められているけど。
だってあちこちに現れたらこまるだろ?
家の中は別にしても。

あとは、共同の移転スポットで移動したりな。
バスとか電車みたいな感じかな。

車?それっぽいのはあるけど
それも風の魔力を応用している。


花屋はオレンジ色のかわいい建物だった。
「いらしゃいませー。」
「贈り物したいんだけど・・・
 小さな 黄色の花 ありますか?」

「あら、じゃぁ、これはどーぉ?誕生日?」
「はい。大切な・・・友達に・・・ですけど
 配達とかできますか?」
「できるわよ。
 メッセージカードも描く?」

おねーさんは、にこっと笑った。
なかなか愛嬌のあるおねーさんだ。

黄色い花を包んでもらっている間にメッセージカードを見る。

「そのカードすごいのよ。
 書いたら、文字が浮かび上がるのよ。」

ちらりと後ろを見ると確かに魔法陣。おぉ、すごい。
うーん。どうしようかな。
「おねーさん、このカードかいてお花贈ったら
 僕が・・・ってわかっちゃうかなぁ。
 わからないほうがいいんだけど」
「ん?そうねぇ、魔術で浮かび上がらせたらわかると思うけど・・・
 もしかして、君って、貴族?」

「・・・ん。そうなんだけど、プレゼントを送る子には
 僕からって知られたくないんだ。
 僕、距離を置かないといけなくて・・・だから、
 せめて最後に花を贈りたくて。」

「っ!!! 家の事情で・・・友達と会えなくなったの?女の子?」
「うん。笑顔のかわいい女の子。」

にこっと、笑う。
おねーさんは いいように勘違いしてくれて
涙目で、「大丈夫よ!せめて私が あなただとわからないように贈ってあげる!」とガッツポーズした。メッセージカードはおねーさんが代筆。
シンプルに、「おめでとう」とだけ記入してもらった。

「ありがとう。おねーさん。これで、お金足りる?」
「たりるわよー。というか
 持ってきすぎよ。怖い人もいるからね。金貨は持ってきちゃダメ。
 子供が店先で金貨やり取りしていたらいいカモよ。
 このお花は3銀で余裕よ。配達代はサービスしてあげるわ。」

おぉ、そうなのか。
タイラーお金いっぱい入れてくれていたんだな。
おねーさんもお人よしだな。教えてくれてありがとう。

「おねーさん、ありがとう。
 お礼に、見ててっ。最近できるようになったんだ。」
財布に一緒に突っ込んであった紙に
くるっと 円を描く。
幻影、きらめく星 5秒 と外側にかいて 中央に 輝 の一文字。

「なぁに?」
「ふふっ。」

魔力を通すと ぶわぁあっと光があふれて
キラキラっとはじける。花火のような、スパンコールのようなきらめき。

「う、わぁぁああ。素敵!
 ありがとう、小さな魔術師さん。」
「どういたしまして。成功してよかったぁ。」

正直ほっとした。
にこにこ、と笑顔で返すと
おねーさんは、きゅっと真面目な顔をして、
「でも、ダメよ!こんな素敵な魔術が使える『強い魔力もち』の『貴族の子』だと
 わるーい人にさらわれちゃうかもしれないでしょ!」
「えぇっ!?」

そうか、そうだよな。
おねーさん、教えてくれてありがとう。
俺、もっと気を付けないといけなかったんだな。