元 婚約者の父 モンレ公爵は
たった10歳だったという事実に気が付いたのは、
フランチェスコ王子の部屋をでて、ぱたん
と扉が閉まった瞬間であった。


「・・・っ。」
やり込められた感がすごい。

セリィがいい令嬢?
そんなの、当たり前だ。というか、天使だ。
上流階級で輝く?
そんなの、当たり前すぎる。
というか、今も輝いてまぶしすぎるぐらいだ。

なにが、なにが気に入らないんだ。

という、怒りとともに、
はた と気が付いたフランチェスコ王子はまだ10歳。
溺愛する娘より一つ年下だという事実が
確実にモンレ公爵を冷静にする。


「・・旦那さま。」
「チェスター。私は娘に、甘い 男だよな?」
「まぁ、そうですね。」
長年、モンレ公爵に使えるチェスターは
悪びれもせず肯定する。

モンレ公爵に負けないぐらいの強面のチェスターは
髭を蓄えた口をにやり、歪める。

その顔に、冷静さが戻ってくる。
王の右腕と言われるぐらいの冷血な宰相。

・・・調べた時は・・報告書にも
フランチェスコ王子は ああいった態度をとるような男には見えなかった。

セリィからも、セリィにつけた侍女や護衛や『影』からも
関係は良好だという報告だ。

あの、
婚約破棄を伝えられた庭園でも、
終始、フランチェスコ王子は優しい笑みをーーー
その後の婚約破棄の話だ。

くそ、うちの天使を泣かせやがって・・
と、違う違う。
ふーっと心を整える。

モンレ公爵は
思いを巡らせる。娘が絡むとどうも頭が鈍るな。
軽く頭をふって、
歩き出す。

先ほどの、王子との会話
今まで上がってきてた報告書。
周辺を渦巻く悪意。
何でも無いような、出来事まで思い出しながら、一瞬のうちに
フル回転させる。

「チェスター。
 セリィの警護を、強化せよ。
 フランチェスコ王子には、まだ「密偵」や「側近」が付いてないはずだから、
 護衛の騎士に注意させよ。」
「・・?旦那、さま?」

念のため、だ。

とモンレ公爵は思ったが、
かちり、と 頭の奥で はまった 考えはどうしても それとしか思えなかった。

ーーー僕では彼女を幸せにはできない。
ーーー好きだけではダメだ。

フランチェスコ王子の言葉が反復する。
彼は、彼の周りの悪意を・・・しってる?
なにが、起こっている?