セーラは二人の面会お茶会に付き添っていたからわかる。
お菓子を分け与える様子も、
好きなものの話をする二人も、
とても、お似合いでほほえましかった。
「すこし、さがって」
とセーラたちを少し 遠ざけて
二人っきりになるフランチェスコ王子をほほえましく思っていたのだ。
・・・あの、中庭の庭園で
夕日の中でセリィローズ様が置き去りにされるまで。
いくら、
遠ざけられているとはいえ、
二人の様子や会話は途切れがちだが聞こえる。
セーラも、モンレ家のセリィローズに使えている彼女たちも
その様子をハラハラした様子で見守っていたのだ。
「・・・リィア様。
私には、フランチェスコ様がセリィローズ様を
嫌って、好みじゃないから 婚約を破棄したようには見えません。
だって、あの、庭園で・・・
『好きなだけじゃ、守れない』と たしかに、仰ったんですもの。」
「私も、扉の外だったから、
途切れがちにしか聞こえなかったんだけど。
モンレ公爵にも・・・わざと、強い態度に出てたような気がするわ。
フランチェスコ様は
いつもは、あんなふうにバカにしたように笑わないもの。」
扉の向こうで笑って公爵をわざと挑発したかのような
ものの言い方だった。
そして、王子は確かに言った
「セリィはいい令嬢だ。上流階級の世界で羽ばたいて輝く」と。
だから、リィアは
お茶を差し出しながら聞いてみたのだ。
なぜ、婚約破棄をなさるのかと。
「ただの、フランになったとき彼女はそばに立てない。
そんなところに立たす気はない」
・・何を、言っているんだろう。
王子がただの・・フランになったときって・・・
「ふふ。リィア。
王族は、好き、嫌い、を言ってはいけないんだろ?」
この一言に、リィアは頭を殴られたかのような衝撃を受けた。
あぁ、この方は、
どれだけの『好き』を飲み込んできたんだろう。
どれだけの『嫌い』を受け流してきたんだろう。
「・・・・はぁ。
ホコリも虫も、一気に掃除できればいいのに・・」
その一言に、
リィアは気が付いたのだ。
守るためだと。
この、婚約破棄は 彼女を守るためだと。
フランチェスコ王子は知っているのだ。
王子を狙う不届きものがいることを。
すぐに
専属となった騎士ビラットに警戒をと告げる。
間もなく、騎士フィロスが捕まったと聞かされた。
身内の不祥事だし、迅速に処理されたから
この、大きな事件は表立ってはないが
王子には一応、私から
騎士フィロスは家庭の事情により退職した、って伝えましょう。
王子の身近に、王子を利用とするものが入り込んできていることは否めない。
10歳になり、王子としての自覚が出てきたフランチェスコ様は
本当にしっかりしてきて
どこか、大人びている。
どうにか、どうか、フランチェスコ様が・・・心から
笑って『好き』と言えるように
なりますように。
「セーラ。
そろそろ終わりますね。タオルとお茶を用意して。」
「はい。リィア様。行ってまいります。」
リィアは、静かに小さなフランチェスコ王子を見守るのだった。


