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「てなわけで、
俺は、王子のこと、結構 好きっすね。」
「・・・騎士タイラー、言葉づかい・・」
「すいません。
というか、王子はあの時から、フィロスが怪しいと睨んでたんですかね?」
「まぁ、『操ろうとしていたものを捕まえた』と報告した時も
『そうか』と一言 返しただけだ。
フィロスの事など 聞きもしなかったから、知っていたのだろう。」
「いつから、
だいぶ前から 身の危険を感じてたんっすかね?」
だとすれば、誰にも言えずーー?
今思えば、王家に忠誠をとか、
王子に何かあったら ビラット様にも影響が出るから「騎士の祈り」を拒否とか、
・・・王子は・・・しってた?
タイラーは報告書をぺらっとめくりながら
ビラットを見る。
「たぶん、な。
「王家に忠誠をちかえ」とか言ってたしな。
そもそも、オレに「お前は味方か?」と聞いてきたから
だいぶ前から『敵』がいるとは思っていたんだろう。
フィロスにも「お前は味方か?」と聞いてたしな。」
「へぇ。その時フィロス様は何って言ったんすか?」
「あぁ、満面の笑顔で「私は味方ですよ!」と言ってた。
ま、結果ものすごく「敵」だったわけだがな。」
「そうっすね。」
ビラットは眉間にしわを寄せた。
「ちなみに、王子はその時
ものすごく、困った顔をなさって「即決で味方ですよ・・・か」
なんてつぶやいてた。
それが、まぁ、オレがフィロスを疑い出すきっかけだな。」
「・・・フランチェスコ王子。本当に10歳っすか?」
タイラーは、
驚いたように笑った。
「まぁな。
オレも普通の10歳の男の子だと思ってたんだがな。
兄であるアレッサンド様が学園に入られたあたりから、しっかりしてきたな。」
「あぁ。「王子」であることに 自覚が出たんですかね。
もしくは・・・次代の王を・・・」
「タイラー。」
「・・・すんません。不要な検索でした。」
次の王に 第二王子であるフランチェスコを。という声もある。
よけないことを言わないのが吉だろう。
タイラーは 肩をすくめて
次の書類に目をやる。
魔法のかかった紙。
「・・・警備の強化と
保護の・・・提案って、これ・・騎士ビラット様・・」
思わず、肩に力が入る。
「あぁ。念のため、な。」
「これって、セリィローズ様の周辺の警備強化の提案って・・・
モンレ公爵は正式な『婚約者』を外れたんですよね?」
「あぁ。『婚約者候補』らしいがな。
・・・念のためだ。」
「って、騎士ビラット様。これ・・モンレ公爵側からも、
フランチェスコ王子周辺の警備の強化申請と予算案って・・・」
「・・・モンレ公爵からというより
モンレ宰相のほうから、国の采配として強化の申請が来てるな。
王子の周辺に気を配れ、とのことだ。」
「・・・・。」
タイラーは、ちょっと顔をしかめたが、追及せず 自分の魔法をかけて
くるり と 魔力のリボンで閉じる。
一度、文章を見ると消えるという 魔法のかかった『密書』である。
「・・・信頼のおける側近と、
フランチェスコ王子が、気を許せる『影』が早く
できると良いんだが。」
騎士ビラットは、ぽそりとつぶやいた。


