騎士タイラーもまた、
フランチェスコ王子を守る騎士の一人だ。
もともと、警備の交代要員として
たまに、ビラットと、今回捕まったフィロスとともに、
王子の警備にあたったことはあるものの、
あまり
かかわることはなく、印象も「王子だなー」ぐらいで
そんなにない。
騎士タイラーの意識が変わったのは、
騎士ビラットの『専属騎士』の報告のときだ。
*
そこには、今回捕まった、ピンク髪の騎士フィロスもいた。
騎士ビラットによって任命書を読み上げる。
「・・・によって、専属騎士の任を受けて・・・」
「あぁ、もう、長いよ。
つまり、騎士ビラットが『第二王子専属の騎士』ってこと?」
「はい。」
騎士ビラットが恭しく頭を下げる。
「ふぅーん。
そうなんだ。わかった。で?君といつも組んでいる騎士フィロスは?」
王子は、騎士フィロスをまっすぐ見つめた。
騎士フィロスは、礼の形をびしっととる。
「はっ。私は、もちろん王子の護衛に誠心誠意努めますが
今回の専属の任は、頂いておりません。」
「ふーん。
なるほど。」
「ーーー王子の専属がいやだというわけじゃ」
ちらり、と 王子は騎士フィロスを見て、にこっと笑った。
見事なまでの王子様スマイル。
「別にかまわないよ。僕の警備はわざわざ専属じゃなくてもいいさ。
国に忠誠を、誓っている 騎士 だろ?」
「・・・っ。はっ。」
ピンク髪の騎士フィロスは、若干 詰まったように
騎士の礼の形をとる。
思えば、この時から、「あれ?」と騎士タイラーは思っていた。
なんだか、フィロスの様子が若干おかしいというか、
何だろう。魔力や雰囲気に影が落ちている。
と、一瞬感じてしまったのだ。
騎士タイラーは今思えば、何だが
その時の騎士フィロスは十分、怪しかった。
なんて、実感する。そもそも、専属の話は騎士フィロスにも来ていたはずだし。攻撃力だけだと騎士ビラットよりも繊細な魔力を紡ぐのは騎士フィロスだ。
騎士タイラーは、騎士ビラットのそばで控えていた。
今から行う専属の魔術、「騎士の祈り」を行うからだ。
騎士の中でも、神聖で重要な魔術だ。
術者が大量に魔力を注ぐため、
倒れてしまうかもしれないから、それを支える為に
今から騎士の祈りの魔術を発動させる騎士ビラットの後ろに、騎士タイラーは控えている。
「では、フランチェスコ王子、
私の「騎士の祈り」を受け取って
専属の契約を・・・」
と、騎士ビラットはおもむろに空中に魔力を練り上げて文字を書き始める。
・・・ちりちり、と魔力が燃える。
赤い髪がふわりと 発色する。
5重の円に魔術の文様。
その光景に騎士タイラーは感動すら覚えた。
おぉ。さすがだなビラット様。
専属騎士なんて、誰もがなれるわけじゃない。
この契約の魔術文様をかく『魔力』も必要だ。
だって、五重の円にびっちり 文様だぜ?
覚えるのも、むーりーー。
ほら、魔法量の高いビラット様でさえ、汗だくで・・・
フランチェスコ王子は、初めて「騎士の祈り」を受けるのだろう。
なにやらどんどん顔色が・・・わるい?
騎士タイラーの心配をよそに、
「え?まじで?」なんてフランチェスコ王子は
つぶやき始めた。なんだか、眉間にしわを寄せて、嫌がっている。
ようやく中央部の文様を描き終わり、
あとは王子と契約というところで、
「ちょ、ちょっとまって!騎士ビラット、
この「騎士の祈り」って・・・」
「はい。昔から伝わるーーー騎士と、主の誓いの魔術です。」
「いや、まてまて。
早まるな。これを行うと、騎士ビラットは
俺の事を何よりも優先してしまうな?ってか、下手すりゃ死ぬじゃん」
「はい。それが、専属の・・・」
「バカか!これが発動されたら
俺が何かあったら、お前まで巻き込まれるだろうが!」
・・・そりゃ、専属騎士だからな。
なんて、この部屋の誰もが思ったことは
どうやらフランチェスコ王子には伝わってない。
後ろに控えていたセーラ嬢が「言葉づかい・・・マナー」と注意をすると
王子はちょっと はにかんで、「ごめ・・・解った。」
と言い直した。


