フランチェスコ王子は 少し考えて
いつものように魔力を少し溢れ出させた。

身を包む魔力がきらり、と輝く。

「・・・・あ。いつもの、王子だ。」

思わず小さくつぶやくと
フランチェスコ王子は くす、っと笑った。
どこか子供っぽくて
どこか大人っぽいそんな笑顔。


あぁ、よかった。
これで王子の本質を見抜くという義父からの指令は
どうにか報告できるだろう。

魔力の安定と
強力な『幸運』持ち。



これで殴られなくて済む。
ほっと、安堵した。

ある程度の魔法や呪いは
ジョイルのスキルにある「光の反射」が無効にしてくれるが
武力には対抗できない。





「じゃ、とりあえず
 一緒に『温泉』しよーぜ。」
「・・・?オンセン?」

座学も一通りおわり、
王子がニコリ、と笑ってジョイル手を取った。

どうやら、外に「ぷーる」を作りたかったらしい。
大きな人口の池らしい。
でも警備の点から却下されたので
王宮の一番大きな 浴槽を滝にしてもらったらしい。

・・・滝?


どうせだったら、楽しく 仲良く勉強したいじゃん?

なんて言いながら
王子はぽんぽーんと服を脱ぎ捨てる。

そのたびに、侍女の人に咎められるが
にこり、とあの 愛想のいい笑顔を浮かべて ごまかしている。

「ほら、ジョイルも脱げって。
 あ、パンツはそのままな!一応『温水プール』だから。」
「・・・はぁ、わかりました。」

風呂ではないのか?

とりあえず脱いで 
タオルを受け取る。

というか、こんなに人に確認されながら
脱ぐなんて 恥ずかしいな。

というか、さすが「王子」だな。
動じていない。


「ってか、ジョイル・・・」

王子がちょっと顔をしかめて こちらを見る。

「なんで こんなにお前・・・
 傷が多いんだ?」

「・・・?」



「てか、ほんとほっせーな。
 ちゃんと食べてるか?」

「・・・はい。きちんと、2~3日に一食は食べてます。」

「マジか!すくねぇ!」


きょとん、とジョイルはフランチェスコ王子を見返すが
後ろで控えていた 侍女も少し、息をのんだが平静を保っている。

「おなかすかないのか―?そーゆー体質?」

「・・・そうかもしれません。勉強ができない体質かもしれません。
 おなかはすきますが、なかなか 僕の覚えが悪いので
 勉強や鍛錬が追い付かないので食事を食べる資格がないので。」

あぁ、最近 先生張り切りすぎだよな。
ちょーむずかしいって、アレ。
なんて言いながら
王子は、「食べるの用意しといて。あと医者も。」なんて言いながら
ジョイルをぐいーっと引っ張りながら
浴槽へと向かう。

ひらけたそこは、
平たい石を敷き詰めて、
上のほうから温水があふれている『滝』がある
『温水プール』であった。


「剣の鍛錬?の割には、打ち身が多いな?
 組手とか柔術とかもやってんの?こんど、手合せしようぜ?」
「・・・いいえ。僕は剣を使えませんし。
 これは 義兄が体術を試したいということだったので
 蹴りを受けたとき・・・でしょうか?」

「えぇ?!マジか。兄と仲悪いのか?」
「・・・ん?仲が悪い、というより
 僕が お世話になってるので・・・」

両親が死に リザマートの親族に引きとってもらっている
実験体になるのは当たり前でしょう?
僕が 悪い子だから 勉強もできないから 当たり前でしょう?

あまりにも、淡々と
普通のこととしてジョイルはつぶやく。

控えている侍女は痛々しいジョイルの体を直視できなかった。


「まじかー。じゃぁ、そーゆーのが
 当たり前 じゃないとこに 引き取ってもらえりゃいいのにな。
 お前、めっちゃ 頭いいじゃん。」

なぁ?

と、控えている侍女と騎士に向かって
王子はにこりと笑う。



ジョイルはこの時のことをあまり
覚えてはいないが

めまぐるしく 周りが変わった。

遊びつくしたジョイルと王子を
待っていたのは
王宮魔導師のトップであった魔導師バームス。
そして、温かい食事であった。


さすが、王宮魔導師バームス様。この人の魔力は強くて暖かい。
なんて思っているうちに
屋敷とは別方向に『飛ばされ』た。

美人な赤い髪の女性に しばらくお世話されながら
手を引かれてやってきたのが
母の遠縁である、この「シャボンワーク家」であった。