王子は冒険者になる!


***



「やだ、ほんと、ごめんなさいね。
 あの子、我がまま放題で・・・」

冒険者ギルドで 依頼完了とお嬢様の『サンカに聞け』は
ギルドの受付三姉妹、サンカ姐さんのことだということなので
さっそく受付に聞きに来たのだ。


「あそこの奥様に仕えている侍女が私たちの親でね。
 だから、私たちも交代であの子に仕えてるのよ。」

そういってサンカ姐さんはふふふ、ときれいに笑った。

聞くと、彼女は妖精族で20歳。まだまだ子供だって。
人間族で言うと6歳ぐらいかしら?
とのこと。

ここの領主さまが圧倒的に『緑の魔力』に秀でていて
妖精である奥様を娶ったんだって。
てかさ、エルフと妖精族は違うわけ?
あ、違うのね。うん、よくわからないけど、違うのね。


でも 老化の具合が人族と異なる。なるほど、
だから、あの容姿で20歳 と言ってたんだな。

そーいえば、メタリックグリーンの髪は エルフの象徴だしなぁ。

そりゃ、ツタの束縛の魔法も上手なわけだ。

「だからと言って、
 一緒に『旅行に同行』の依頼は『なし』だと思うんだけど。
 護衛でもないでしょ?俺そんな実力もないし。
 ダイナラスさんはどうするの?」

「がはは。オレは無理だな。 
 冒険者である前に「騎士」だろ?騎士の仕事がこの町であるから
 この町から離れられないんだ。」

「そうなんだ・・・。」

俺も正直、面倒くさい。
あの ちょっと我がままお嬢様の相手かぁ・・・。

王宮に来るお嬢様の相手も
すっげー俺 猫かぶって「王子様」を演じてたからな。
今更、取り繕うのとか面倒だな。


「ねぇ、チェースさえよければ、
 隣の町まで遊びに行くって感覚で、引き受けてほしいの。」

「えーーー。サンカ姐さん・・・」

「お ね が いっ。」

「えぇ・・・・・・。」

「あの子、友達がいないのよ。」

「え?」

「ほら、周りに妖精やエルフとか、
 あまりいないでしょ?この町。
 まぁ、魚人族とか、半獣とかは多いけど。
 幼いころに遊ぶ友人は 人族が多いでしょ?
 そしたら、周りはどんどん 大きくなって あの子一人だけ
 幼いまま。」

「あぁ、それは・・・そうだな。」

そうだな。エルフに比べたら人族の成長は早い。
半獣とかだとさらに力も強くなるのも早いから
遊べなくなるな。

 
「一応、20歳なんだからもう少し落ち着いてもいいと思うんだけどね。」
「まぁ、20年、礼儀作法を学んだお嬢様にしては
 ちょっと「おさない」かな?」

俺のマナーの先生だったらマジ追加授業ものだな。

「さらに、今奥様も伏せってるから
 お嬢様がさみしいだろうって、周りも気を使っちゃって。」

「奥様が?」

「えぇ、ほら
 前回『瘴気』の浄化作業 してたじゃない?
 あれねぇ、近くにあるだけで奥様、調子が悪くなるのよ。
 私たちは、まだ平気だけどさ。敏感すぎるのも大変よねぇ。」

ほら、純潔の妖精だからさぁ、なんて言いながらサンカ姐さんは
ひらり、と書類を俺の前に差し出す。

「・・・・サンカ姐さん。」

「がはは。チェース、あきらめろ。
 経験になるから頑張れ。」

も――!!ダイナラスさんまで!

はぁ。というため息とともに 俺は概要を受け取ってサインをした。