暑い中の撮影は堪える。
何度もNGシーンを出してしまった私が弱音を吐くことはできず、重い身体を引きずって撮影に臨んだ。
色白の椎名雪乃さんだって暑い顔ひとつせず、可愛いらしい笑顔を振りまいている。
演技と言えど、監督もスタッフも夢中になって彼女を目で追っていた。
美島さんが差してくれた日傘の下でスポーツドリンクを飲んで、なんとか持ちこたえる。
2泊3日の京都撮影はタイトなスケジュールだ。
体調を崩しているなんて絶対に言えない。
3人で京都旅行に来た時も天気が良く、誰も口には出さなかったけれど、海との最後の旅行だと自覚していた。悲しい思いを吹き飛ばすかのように、たくさん笑った。
全ての苦しみを忘れるため、かけがえのない時間を大切に過ごしたのだ。
「ユウさん、今夜2人で観光しませんか?」
京都に来てもなお、椎名雪乃さんは懲りずにユウを誘っていた。
私にはあまり話しかけてくれず、嫌われてはいないだろうが眼中には入っていなさそうだ。
「夜は盛大に宴会だって、監督が言ってただろうが」
「ユウさん、宴会とか嫌いでしょう。2人で抜け出しましょう」
「断る」
ユウはいつも通り相手にしていない。
この暑い中、雪乃さんもめげないな…。


