「俺こそ分かんねぇな。大切な人を亡くす哀しみとか、理解できない」
「そうなんですね…」
ユウは大切な人を亡くしたことがないのだろう。
だからあの胸が張り裂けそうな絶望を知らないのだ。
「おまえのイメージと違がったら、遠慮なく意見しろ」
「週刊誌で読みましたよ。ユウは演技指導を毛嫌いするワガママ王子だって。監督もスタッフの意見も取り入れない自己流でしょう」
そうまでして自分のイメージを貫いた結果が、芯の通った迫真の演技で、観客の胸を打つ。
視聴者を味方につけたユウだからこそ、態度は悪くても芸能界を生き抜いてこれたのだ。
それも若手実力派俳優のトップとして。
「原作者のおまえが正解だろ。それと違うイメージを持つのであれば、俺が間違っているんだよ。だからきちんと指摘しろよ」
台本を閉じて彼は私の目の前に小指を突き出した。
「え?」
「指切り」
「指切り…」


