「なんで…」


「玉子焼きは醤油派なんだけど」


「私は甘い方が好きなんですーーって、そうじゃなくて!」


「好きな奴からのお弁当を嬉しそうに食って、おまえ、撮影のことなんて全く気にしてないのな。…俺と誰がキスしようと、おまえはどうでもいいわけか」


キスシーン。
頭の片隅に追いやっていた。
だって、考えたってどうしようもないことだ。
【BLUE GIRL】にとっては必要なシーンであるし、2人は役者だからそれくらい涼しい顔をしてやってのけるのかと思っていた。



「…ユウさんでもキスシーンって緊張するの?」


「緊張はしない」


「どんなことを思ってキスするの?唇、柔らかいなとか?」


平然として話題を逸らす。Ryoに抱いていた気持ちのことはユウに言いたくなかった。



「おまえの唇だったらいいな。って、脳内で変換して臨むわ」


「え?」



「俺が欲しいのは、青海苔つけた色気なんてねぇおまえの唇だけ」



「私の唇…、青海苔!?」


慌てて唇を抑えると、ユウは楽しそうに笑った。


「ご馳走さま」


そう言って腰を上げるユウを引き止める言葉はない。


椎名雪乃さんと本気のキスをしないでと、
口に出して言えたら良いのにね。


消えた後姿を、寂しく思うことしかできなかった。