曲に集中しているユウの邪魔にならないよう外に出ようとすると同時に、扉がノックされた。


振り返ったがユウはノックに気付いていないようで代わりに開ける。


「やっぱり此処にいた」


レースのあしらわれたノンスリーブを着た椎名雪乃さんが、見惚れてしまう程の笑顔で立っていた。


「来て!」


細い指に手首を掴まれ、廊下に出る。


十字路になった広い場所に監督が立っていて、雪乃さんに背中を押されるようにして近付く。



「やぁ、」


「おはようございます。挨拶が遅くなってすみません」


「それよりさ、」


普段は厳格な顔つきの監督が珍しく目尻にシワを寄せて微笑んでいる。


そして後ろ手に隠していたものを、私の前に広げた。



「…え、」


フルーツがたっぷりとのったケーキが差し出され、中央のプレートには"羅依さんおめでとう!"と書かれていた。

プレートを縁取るお花の装飾は細かく、私の似顔絵入りだ。


「どうして…」


「原田さんが君の誕生日であると教えてくれたんだ」


雪乃さんを始めとするスタッフが私の周りを囲い、拍手をしてくれた。


こんなに大勢の方に誕生日を祝われた経験などなく、素敵なサプライズに言葉を失う。


「素人の君に無理をさせて映画に出てもらったけど、君を誘った時と変わらぬ気持ちを抱いている。君は実写【BLUE GIRL】に必要な人間だ。撮影が終わって世間の人々の目に作品が映る時、君は重圧を背負うだろうが、恥じることはなにひとつない役者に成長してるよ」


監督の言葉。


「一生懸命なあなたに私も頑張ろうと思いました。たくさんの不安を感じているでしょうけど、あなたは役者として精一杯、努力していると思うわ。残りも頑張りましょう」

雪乃さんの言葉。


そしてみんなの視線がいつの間にか最後尾に立っていたユウに注がれる。