相変わらずユウは完璧な演技を披露して、誰よりも先に帰って行った。
「恋人のユウさんってどんな感じなの?」
エレベーターを待っていた私に数人のマネージャーを引き連れた雪乃さんに声を掛けられた。
甘い香水を振りまき、毛先を内巻きにカールした髪を弄びながら雪乃さんは笑った。
「別にあなたとユウを別れさせたいとか思ってないわ。ユウがあなたに飽きたら、もう一度告白してみるつもり」
「…そうですか」
「でも最初から、分かってたわよ。あなたのことを見るユウはとっても優しくて、羅依さんしか見えていないことも」
「……そんなことないですよ」
ユウは私のことを好きで付き合っているわけではない。初めからーー雪乃さんから逃れるために私を選んだだけだ。
「デートとかよくするの?ユウさんはどこに連れて行ってくれるの?」
「…普通ですよ……」
デート?知らないよ、そんなの。
「隠さないで教えてくれてもいいじゃない」
口を尖らせて不満そうな顔をされても、答えられない。私たちは偽の恋人なのだから。


