「そんなに嫌なら、もっとはっきり抵抗しろよ」
「…最低！」
分かってる。
腕を突っぱねて嫌がる素振りを見せれば、彼はすぐに退いたはずだ。
触れた唇を噛んで逃げ出すこともできた。
「俺が最低な奴だってこと、ずっと前から知ってるだろう」
「他の女の人で、やればいいでしょ！」
言葉と、心が裏腹で。
頬を伝う涙を優しく拭ってくれる手を拒めない。
「もっと遊び慣れた女の人として！」
「………そうだな」
自分からふった話ではあったが、肯定されるとキツイものだ。
私でない他の誰か、
例えばーー椎名雪乃さんを相手にした時、
私の心は壊れるだろう。
「で、でも！わ、私と付き合っているフリをしている間は女遊びは止めてね！」
「なんで？」
「そんなこと自分で考えなさいよ！」
今度こそ頰に触れていた手を、払いのけた。
